民法について全く知らない人でも、民法(特にその考え方)について知ることができる本。民法ってどんな法律かちょっと知りたい、というライトな教養目的の人はもちろん、宅建や行政書士など民法を勉強しなきゃいけない人の入門書、あるいは他のテキストを読んでもゴチャゴチャしてきた人の整理としても効果を発揮素する抜群の良書です。
本書は入門書であり新書という性格を見極めた上で、わかりやすい構成上の工夫を凝らしています。
具体的に言いますと、1日目と2日目に大きく分け、1日目には民法の全体像や総論的なお話を必要な限りでまとめた上、権利の発生・変更・消滅という大枠を示しています。
そして、2日目では総則から物権・債権・家族法と民法典の順番に即してケースメソッドで重要論点に解説を加えています。
本書のこの構成は、他の民法入門書と比較してもかなりわかりやすい、と言えます。
というのも、民法はとかく分量が多く、また民法典自体がパンデクテン方式といって共通ルールを因数分解のように前に括り出しているので、体系的でコンパクトではあるものの、初学者には非常に取っつきにくくなっています。
民法学者の入門書や教え方にも、本書のようにまず典型的な契約・権利の一生(発生・変更・消滅)を提示した上で、例外ルールについて説明していくという方式はないわけではありません。
ただ、初めて民法を学ぶ人を想定したときに、ここまで必要最低限の事項を厳選し、読者に一番大事な基本を骨太なモデルとして提示できた本は他にないのではないかとすら思います。(この点、新書という対象読者と紙幅による制約が良い方に作用したと思われます)
そして本書は後半の「2日目」で民法典の大系に沿った論点を提示しています。これにより、民法の一番基本的な権利についてのモデルを念頭に置いた上で、民法典の大系と内容を自然と理解できるようになっているのです。
本書の新書という性格を考えたときに、教養民法あるいは民法学習の最初の一冊としてはこれ以上無い出来で仕上がっていると思います。
民法に興味がある方、民法学習者(特に民法に苦手意識がある学習者)にオススメする一冊です。
※ それにしても、光文社新書の法律解説本のわかりやすさと"最初の一冊本"としての出来の良さには目を見はるものがあります。以下、良いと思ったのを挙げておきます。
・木山泰嗣『分かりやすい「民法」の授業』(本書)
・佐藤孝幸『出世するなら会社法』
・三木義一『給与明細は謎だらけ』(所得税法)
・佐藤広一『泣きたくないなら労働法』