2012年9月26日水曜日

[紹介] 加藤鷹『エリートセックス』

加藤鷹『エリートセックス』
テクニックよりも女性への気遣い、相手の気持ちに気づくための観察力・読解力の重要性を説く。対人関係一般に通用する話だが、著者のような細やかな心遣いがもう才能の水準に達してて、なかなかマネできないのも確か。(crossreview

 カリスマAV男優の著者によるセックス道の指南書、とでも言うべき本。セックスのテクニックについても触れられていますが、それ以上にメンタリティについての指摘が多いです。

 本書を3つのキーワードで括るとすれば、「思いやり」「インテリジェンス」そして「才能」。

 まず「思いやり」から。
 著者はAV女優からの「指名」が多いという逸話があります。著者と言えば「ゴッドフィンガー」で有名ですが、そういうテクニックよりも女性への気遣いがハンパなく、それは一緒に仕事をしたAV女優さんたちが一番良くわかっているのでしょう。
 本書の中でも繰り返し言われているのは、テクニックに頼らないこと、パートナーのことをしっかり見てどうやったら気持ちよくなるかを常に考え続けること、”本番”よりも”前後”などを大事にすることなど、男性側の心構えについてです。男性がややもすると行為それ自体に走りがちなのを戒め、パートナーとのスキンシップや心の交流を大事にすべきであるという著者の主張は、形を変えて何度も述べられます。
 読んでいると、器が大きくて優しい著者の人間性が嫌と言うほど伝わってきます。それは上っ面やきれい事を言ってるだけでは伝わってこない、本心からそう思っている人のメッセージです。
 大多数の男が持ち合わせていない「優しさ」って、多分こういう人の性格を言うんだと思います。(異論は受け付けません)

 次に「インテリジェンス」。
 著者の文章でも良いですし、たまにテレビに出ているときの話でも良いですし、「秘技伝授」の解説でもいいんですが(笑)、とにかくどれを見ても著者は自分の考えていることを明確に言葉にしています。しかも、ご自分のお仕事が世間の常識からかけ離れた所にあることを認識し、それを踏まえた上で読者に伝わるよう語れる知性も備えています。
 数年前から一部で恐るべき文才をこれでもかと発揮しまくっているAVの帝王・村西とおるさんも、文章・話術はスゴいですが、それとはまたひと味違います。比喩として正しいのかどうかわかりませんが、村西氏が故・水野晴郎先生的なアメリカン・ポリス仕込みのハード路線だとすると、著者は故・淀長先生的なソフト路線だと言えそうです。…ハッキリ比喩として不適切でした、申し訳ないです。

 で、最後に「才能」です。
 本書の中には書かれていませんが、著者は女性と会話するとき、45度の位置に座るそうです。真っ正面だと相手は構えてしまうし、真横に座ると相手が見えにくい。
 そこでその中間である斜めの位置に座ると。さらに、著者は女性に威圧感を与えないため、かならず背を丸めて女性よりも視線を下にするそうです。
 そういう振る舞いの一つ一つで相手を気遣っているそうなのですが…これってもう「才能」ですよね?
 コールドリーディングの石井裕之さんの本を読んだときも同じ事を感じたんですが、普通の、というより大多数の男はこんなこと”面倒くさいこと”自然に出来ませんし、教えてもらっても日頃から常に実践し続けるなんて無理! こういうことが自然に出来るってのは、それだけで既に一つの才能なんです。

 底抜けの「優しさ」という天性の才能・資質を持ち合わせていない我々凡人は、著者のいうことを自然に実践できるまでに「技化」するしかありません。
 ということで、「技化」については、以前書いた石井裕之さんの本の紹介齋藤孝さんの本をお読み下さい。

 それにしても、うう、優しさの道は遠いなぁ…