コールドリーディングの基本的な技法がわかりやすく説明されている。正直、手品のタネを読んでいるよう。だけど、手品の本と一緒で、これはかなり意識的に訓練し、無意識レベルでできるようにならないと使えない技術。(crossreview)
著者の説明によると、コールドリーディングとは、「言語的・心理的なトリックを使って、初対面の人の心を読み、未来の出来事を予言すること…(中略)…平たく言えば、”ニセ占い”」とあります。
おそらく、日本においてコールドリーディングという概念や言葉が認知されるのに一番貢献したのは著者だと思います。一時期テレビでコールドリーディングのデモンストレーションをしまくっていたのを覚えています。
で、本書を読んだり著者が出演しているテレビを見てつくづく思ったのは、「こりゃ才能だわ。少なくとも相当練習と経験を積まないとなかなか使いこなせるもんじゃない」ということです(笑)。
「そんなの当たり前だろ!」というツッコミが聞こえてきそうですが、本書の内容と本書が紹介するテクニックの習得との関係性には普遍的な構造があります。
本書で説明されているコールドリーディングのテクニックは非常にわかりやすく、それこそ手品のタネのように気付けば何てことないことも多いです。
が、それを習得して自分でやってみるとなると話は変わります。
普段から相手に対して細かく観察するような人や、相手の反応に合わせて自覚的に自分をコントロールできる人であればそれほど苦労なく習得できるでしょう。
しかし、たいていの人は普段から人のことをそれほど細かく注意深く見てはいませんし、相手の反応よりも自分の意見や感情の方を優先してしまいがちです。本を読んだくらいでその習性が劇的に変わるわけではありません。それを変えるには普段から常に意識的に人と接し、その中で絶えずテクニックの練習を重ね、しかもそれが無意識のうちにできるようになるくらい続けて初めて使い物になるわけです。
ここまで強靱な継続力は、それ自体が一つの才能と呼ぶべきモノだ、と僕は思います。
本書と本書が説明する技術の関係性は、手品の本とそこで説明される手品のタネの関係、そして教科書とそこで説明されている内容の関係、さらにはビジネス本とそこで説明されるノウハウ・テクニックの関係、と基本的には全て同じです。
コールドリーディングも、手品も、勉強の内容も、毎日手帳をつけたりMECEで考えたりするのも、タネを知るだけなら簡単です。が、それを頭の中に叩き込み、一々意識しなくても自然と出来るようになるにはかなりの訓練と努力が必要で、「知ってる」と「出来る・使える」の間にはとんでもなく大きな溝があります。
本書は副題に《「コールドリーディング」のすべて》とありますが、コールドリーディングについてたくさん知りたいという人(ないし全てのテクニックを"知れば"マスターできると勘違いしている人)には薄く感じるだろうと思います。コールドリーディングのテクニックを網羅した「参考書」としては確かに食い足りなさを感じてもおかしくないと思います。
が、再三申し上げていますが、本の内容を全て頭の中に叩き込み、自分で出来るようにする(これを「教科書」と読んでおきます)には、本書は内容が多すぎるくらいです。
(この辺りの話は、以前、齋藤孝さんの本を紹介したときに書きました)
と、ここで少し穿った見方をすると、本書に限らずビジネス書などで同じような内容の本を繰り返し出すビジネスモデルには、この「知識をかき集めること=出来ること」と思っている人を当て込んだ部分があるように思います。似たような内容だけど知識を小出しにし、表現を変えたりすることで「そのジャンルに関してたくさん知れば、自然とマスターできる」と思ってる人は確実にリピーター化しますからね。
これ以上書くといよいよ我が身を苛みそうなのでやめますが(笑)、要するにアレですね、
1.あれこれ手を広げるな。「教科書」を繰り返し読んで確実に頭に入れろ。
2.「教科書」の内容は知ってるだけじゃダメで、無意識に使えるくらいでないと役に立たない。
…ビックリするくらい当たり前の話に着地しちゃいました…orz
まさに「学問に王道なし」で、今から2300年前から言われてたことですね。(ユークリッドさんはえらかったんだなぁ…)
…と、えらい話がずれましたが、今までの話を踏まえて本書をオススメします。
まず、コールドリーディングについて知らない人は素直に楽しめると思います。
また、コールドリーディングは騙しのテクニックとしても使われるものですから(各種インチキ商法などでも使われています)、知っておくだけでその手のインチキに対する自己防衛力は高まります。
そして、コールドリーディングをマスターしたいという方。本気でマスターしたいなら、本書を繰り返し読み、本書のテクニックの根幹である「何とでも取れるような曖昧なことを言い向け、相手にどんどんしゃべらせる」を徹底的に練習して下さい。私自身がマスターしてないので、本当にそれでコールドリーディングがマスターできるかは保証しかねますが、著者の本を何冊も読んで読んだ端から忘れることを考えたらよっぽど歩留まりは高いと思います。