2012年9月14日金曜日

[紹介] 井沢元彦『暗鬼』

井沢元彦『暗鬼』
戦国時代を舞台・モチーフにした短編小説。人質時代に受けた家康の”秘密”と息子信康を巡る表題作「暗鬼」や黒田官兵衛が信長暗殺の暗号文解読に挑む「明智光秀の密書」など、日本史に造詣の深い著者ならではの作品。(crossreview

 戦国時代を舞台にした、歴史小説の短編集。歴史研究をライフワークとする著者が、歴史の説や異聞を上手く取り入れながら小説に仕上げています。どの話も最後に一ひねり加わっている所は、さすが江戸川乱歩賞受賞作家。

 表題作の「暗鬼」は、徳川家康の話。今川家の人質だった頃に子種を絶たれた家康に子供が生まれるという話。その妻・築山殿は今川義元の情人だったという噂も囁かれており、立派な若武者に育った嫡男・信康を憎む家康の心中はまさに表題の「暗鬼」となる――
 司馬遼太郎が「徳川という政治体制には常に暗い影がついて回る」というようなことをどこかで指摘していましたが、それが腑に落ちたような印象を受けました。
 最後まで気が抜けない短編です。

 「明智光秀の密書」は、本能寺の変の直後、明智光秀から毛利の下にいる将軍・足利義昭への密書を発見した黒田官兵衛が、密書を解読するという名探偵コナンのような話です(笑)。
 読んだときはたまげました。だってこれ、戦国時代の暗号パズルなんですよ!

 「楔」は伊達政宗の半生と、小田原で秀吉に謁見するまでの話。秀吉、怖えよ!

 「賢者の復讐」は、天下統一を果たした秀吉に対する最大限の嫌がらせ!(笑) こういうの大好き!!

 「抜け穴」は主人公が片桐且元と渋い!
 大坂夏の陣で、大坂城から千姫を救い出すため執拗に片桐に抜け穴の場所を聞きだそうとする徳川方。実際、大阪市内のどこだかに抜け穴があるそうです。

 「ひとよがたり」は…ちょっとここでは承暦。是非ご自分でご確認下さい。

 「最後の罠」は、天下人となった家康の暗殺計画。最後の終わり方は、源頼朝が落馬して死んだというのは、実は暗殺されたのをごまかしている、という説を思い出させます。


 全般的に、歴史物というよりも歴史を舞台にした心理戦という色合いが強いように思います。雰囲気はぶちこわしになるかもしれませんが、福本伸行先生に漫画化してもらうと意外と合うかも?(笑)
 短編なんでサクッと読めるので、歴史好きな方はもちろん、そうでない方にもオススメです。