2012年12月28日金曜日

[紹介] 遠藤功・山本孝昭『「IT断食」のすすめ』

 
 ITによって我々は何を失い、何を蝕まれているか。物事を深く考え(られ)なくなった、情報中毒に陥っているなどITの弊害が指摘されている。そしてそれを取り戻すにはアナログな手段で身体性に働きかけるしかない。(crossreview

 2010年に『ネット・バカ』という本が一部で話題になりました。ネットが我々の脳をどう蝕み、どう変えていくのか、その影響について書かれた本です。

 本書はそれのビジネス版とも言うべき本。『ネット・バカ』と比較しても、厚さも文章も遙かに読みやすいので、まずはこちらをお読みになるのをオススメします。

 「ネットをしてるとバカになります」というのをいつかどこかで聞いたんですが、ネットが僕らを蝕むこととしては大きく二つの点が挙げられます。

 一つは、自分で考えなくなることです。ネットがあると、何か問題があったときもすぐ検索してしまいます。自分の頭で考える前に、”答え”を見るという楽な方へ走ってしまいます。最近では2ちゃんのまとめサイトなど、ニュースとそれに対する反応までまとまっていて、はじめから答えが書き込んである計算ドリルを使っているようなもんです。
 知らず知らずのうちに僕らは自分で考えることを億劫がるようになり、気づかないうちに「思考体力」が恐ろしく減退しているだけでなく、間違えることを恐れるようになるという心理的な問題も発生します。

 もう一つは、「情報肥満」から「情報中毒」になるということです。パソコンやスマートフォンをいじってるとあっという間に時間が経ちませんか? 特にSNSをやってる人は、何か書き込むと返事が気になってずっとブラウザを開いたり閉じたりしてて、気づいたら1時間や2時間はすぐ経過していた、なんてこともありませんか?
 「情報肥満」というのは、明らかに情報過多な現代の、特にネット社会において、消化できる以上の情報を抱え込み、接し続けている状態を言います。そしてそれが常態化すると「情報中毒」になり、知らぬ間に自分の大切な時間を湯水のように浪費しています。

 ビジネスの場では、ITがもたらす弊害がこれでもかというくらい指摘されています。ITってコミュニケーション・ツールでもあるはずなのに、本質的な部分において肝心のコミュニケーションが全然機能しなくなるというのは笑い話のようにも思われますが、かつて「ネットが社屋だ」と謳っていた組織でのコミュニケーションがことごとく機能不全に陥ったことを思い返すと、個人的には笑えません(その代わり、激しく合点しました(笑))。

 ネット中毒を断ち切るには、やはり手書きだったり現場・現物だったりと、旧来のアナログなものに接するのが一番のようです。本書でもそのような指摘がなされています。
 僕自身、編集・整理の利便性から、一時期メモのまとめなどを全部パソコンでやっていました。が、手書きに変えてからの方が頭に残るようになりました。「天空の城ラピュタ」で「人は大地を離れては生きていけない」って言ってましたが、人は自分の身体を切り離しては生きていけないんです(だから、『攻殻機動隊』も、実は脳以外全部ごっそり入れ替えちゃった少佐は、だんだん人格が変わると思うんです。が、これは余談)。

 何となーく時間がない、毎日仕事が無駄に忙しい、そう言えば最近あまり本を読んでいないような気がする…などと感じた方は、是非一読してみて下さい。