2012年10月1日月曜日

[紹介] 和田竜『のぼうの城』(上)

和田竜『のぼうの城』(上)
小田原征伐での忍城攻防戦。でくのぼうの略で「のぼう様」と領民に呼ばれていた成田長親。上巻の最後、石田三成の傲慢な振る舞いにはじめて怒りを露わにし、降伏をやめ、二万を相手に五百の軍勢で籠城する所が見せ場。(crossreview

 戦国末期、豊臣秀吉の天下統一の総仕上げと言うべき小田原征伐。その小田原征伐における忍城(おしじょう)の攻防戦を描いたのが本作。
 主人公は「でくのぼう」を略して「のぼう様」と領民に呼ばれている城代・成田長親。不器用で、表情にも乏しく、背が高いだけの大男で馬にも乗れない。だが、そんな長親は領民にやたら慕われているのである。

 本巻の見せ場は、長親が石田三成軍二万を相手に戦を選択するところだろう。
 傲慢な軍使・長束正家が城主の娘・甲斐姫を秀吉に差し出せと言ったことで、長親の堪忍袋の緒が切れた。
「いやなものはいやじゃ」
「二万の兵で押し寄せ、さんざに脅しをかけた挙句、和戦いずれを問うなどと申す。そのくせ降るに決まっておるとたかを括ってる。そんな者に降るのはいやじゃ」
「武ある者が無なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す。これが人の世か。ならばわしはいやじゃ。わしだけはいやじゃ」

 だが、この事態を期待していたのは、実は軍使を遣わした総大将・石田三成。三成は、ある思惑があってわざと忍城を威嚇し、傲慢な長束正家を遣わしたのである。
 続く下巻では、いよいよ三成軍二万対忍城五百の戦いが始まる――