スキタイ人奴隷・トラクスが金貸しの主家一家を惨殺して脱走を企てたことから、エメネウスの人生に転機が訪れる。毎夜夢で見る謎の女、出生の秘密、その全てが符合する時…幼少期のエメネウスの真実の描き方がイイ!(crossreview)
毎夜のように夢に現れる、舞うように剣を振るって戦う謎の女。金貸しテオゲイトンに虐待されるトラクスとの不思議な意識の疎通と妙なシンパシー。拳闘(パンクラテイオン)の比類無き才能。家族の何気ない態度。その全てが、エメネウスにまつわる「ある秘密」を示唆していました。
が、これらの「違和感」は、トラクスがテオゲイトン一家を惨殺し、カルディアから逃亡を図ったことを機に、一気に意識の表面に吹き出します。
父・ヒエロニュモスを謀殺した部下・ヘカタイオスの口から語られる、エメネウスの出生の秘密。大地と記憶が揺れ動く中、エメネウスの境遇は激変することに。
なぜヒエロニュモスがエメネウスを引き取ったかについて、本巻の最後で異なった解釈が語られます。そして、その真相は母の記憶の中で、読者にだけ明らかにされるのですが、この描き方が上手い!
真実と、真実を裏付ける事実がバラバラに描かれ、それが出会うことのないまま失われていく。それが、ある日突然、今まで疑いもなく信じていた自らの境遇を根底からひっくり返された、エメネウスの儚いまでに脆いアイデンティティを象徴するようだった。
物語が一気に動き出し、この先の展開が気になるところです。