カルディアのお坊ちゃんから一転、奴隷として売られていくエメネウス。が、予想外に早くエメネウスは自由の身に。漂着したパフラゴニアの村で暮らす中で、予想だにしなかった平和な日々。しかし、その平和に暗雲が―(crossreview)
カルディアのお坊ちゃんから一転、奴隷として売られることになったエメネウス。
胸に去来するのは、楽しかった日々、家族との思い出。その全てが、出生の秘密と共に欺瞞と化したとき、エメネウスは絶叫します。
「よくもぼくをォ!!
だましたなァ!!」
胸中に複雑な思いを抱きつつも、希望を捨てずに自由を求めよと言ったヒエロニュモス家の奴隷・カロンの言葉は、意外にも早く実現される。
エメネウスを買ったゼラルコスの船は、道中で奴隷の反乱に遭い、ゼラルコスは奴隷達に惨殺される。ゼラルコスのもとで、エメネウスはアンカタイオスの卵の塩漬け(キャビア)の研究をするはずだったが、もしそうなっていたらそれはそれでそれなりの生活を送れたのかも知れない。
ともかく、元主人たちを惨殺した奴隷達は嵐に遭い、当然船を操縦することができずに船は沈んでしまう。
漂着したエメネウスを助けてくれたのは、パフラゴニアのある集落の人々。そこでエメネウスは、文化の違いに戸惑いながらも、村の一員として過ごすことになる。
ここでエメネウスが、村の人たちにギリシアの知識(歴史・神話・物語)を提供するところが面白かった。セミナー業の走りというか、物々交換の交換物として「情報」を提供しているのは、梅棹忠夫風に言えば「情報産業」の嚆矢と言うことになるだろうか。
予想だにしなかった生活から一転、田舎での穏やかな日々が過ぎていく。が、その平穏な日々にも、突然の暗雲が立ちこめる―