2013年2月25日月曜日

[紹介] 榊博文『マインドコントロール式説得術』

タイトルは若干キワモノっぽいが、中身は社会心理学の知見に基づく真っ当な内容。人間の心理的傾向から「ドア・イン・ザ・フェイス」など有名なテクニックまで要領良くまとまった良書。「護心術」としてもオススメ!(crossreview

 タイトルこそキワモノっぽいが、中身は真っ当な内容。社会心理学の知見と豊富な実験例を引きながら、人間が説得される際の心理的特性をわかりやすく説明してあります。

 章が進むと「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」や「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」といったその手のテクニック本でお馴染みのテクニックも紹介されています。確かにこれも面白いのですが、個人的には第1章や第2章の心理的傾向を説明した部分が興味深かったです。
 特に印象に残っているのが「バランス理論」。自分(P)・相手(O)・第三者ないし対象物(X)を三角形で結んだ時、P→O・P→X・O→Xの三つの矢印で表される感情をそれぞれプラス・マイナスで表すと、その積がプラスであればバランスが取れており、マイナスであればバランスが崩れている、というもの。そして人間は、このバランスが崩れている状態を不快に感じ、バランスを取るべくOやXへの認知を変えるというのです。
 はじめこれを読んだ時は「本当かな?」と、少し疑問でしたが、例えば「敵の敵は味方」なども、共通の敵を設定するとPO間の関係は良くなるわけで、このバランス理論そのものだと言うことができます。これを上手いこと使えば、相手方Oが対象Xに対して抱いている印象をある程度変化させることもできそうです。…ちょっと使ってみよう(笑)。

 メンタリズムやコールドリーディングなど、この手のテクニック本は最近ではゴロゴロしていますが、本書はある程度体系性を持ちながらそれぞれのテクニックが要領よくコンパクトにまとまっていて、非常にコストパフォーマンスは高いように思いました。
 そういう意味ではオススメですが、「これさえ覚えれば相手の心をコントロールできる」というわけではありません。当たり前の話ですが、テクニックで人を落とすのは難しいですし、落としたとしても一時的なものになるでしょう。本書のテクニックは、効果的に相手に自分の思いや考えを伝えるための補助具と考えるのが良さそうです。
 また、最近では尼崎の事件など、端から見ると何がどうなってそうなったのかサッパリ理解できないマインドコントロール事件も起きています。それらを読み解く一助としても、本書は十分使えます。