2013年1月28日月曜日

[紹介] 苫米地英人『苫米地流思考ノート術』

考えていることをノートに書き出し、それを俯瞰的に見ながら共通概念・上位概念を発見して「思考の抽象度」を上げるという方法論が紹介されている。総論としてはかなり良いことが書かれているが、具体例の出来が残念(crossreview

 総論(抽象論・方法論)ではすごい良いことが書いてあるが、各論(具体例)はちょっと…というのが正直な感想。十分得るものはあると思います。

 まず、他人の話や既存の知識を受動的にまとめた「メモノート」と、自分の頭で思考するための「思考ノート」を切り分けてあり、これは大事なポイントだと思います。

 ノートを書くとなると、どうしても知識を吸収し、まとめることに頭が行ってしまいます。
 しかし、(基礎概念であればある程度丸暗記することも必要ですが)単に知識をそのままインプットするだけでは使えません。比喩的に言えば、食材や料理道具を買い込むだけでは料理の腕は上がらないということです。
 料理の腕を上げるには、実際に料理しないといけません。それと同じく、基礎知識や概念を自分で咀嚼し、整理して使ってみて初めて知識は血肉化し、頭が良くなるのだと思います。

 著者は、本書でも他の本でも、盛んに思考の抽象度を上げろ、ストコーマ(盲点)をなくせ、と言っています。思考の抽象度を上げるというのは、俯瞰的に物事を見ることで意識的・無意識的に見るのを避けている事実を認識し、それにより正確な事実認識やより正しい全体像を認識することを目指している、と僕は理解しています。
 人間の悩みや誤りのほとんどは、正しく事実を認識してないことに起因します。逆に言えば正しく事実と物事の全体像を認識すれば、たいていは妥当な判断・結論に行き着くものです。
 その正しい事実と物事の全体像を認識するのに、著者の提唱するノート術は使えると思います。具体的で細かいところから書き始め、積み上げた事実を俯瞰的に見ることで、全体像を見る訓練になります。また、俯瞰的に自分の挙げた事実の全体像を見ていると、その歪みにも気づくようになります(思考を広げていれば自然とそうなるでしょうし、敢えて自分の意見に自分で反論してみることをやっていると嫌でも見えていなかったものが見えてきます)。

 本書の方法論は非常にいいんですが、ただ、思考ノートの具体例が今イチだと感じました。はじめはこのくらいでOKという意味なのかもしれませんが、個人的にはちょっと説得力を減殺された印象を持ちました。

 著者の本をあれこれ読んでいらっしゃる方は繰り返しの部分が多く感じるかもしれませんが、著者にあまりなじみのない方は読んで損のない本だと思います。「ノートに何を書いていいかわからない」「ノートで考えるってどうやって?」という悩みをお持ちの方は、一読されることをオススメします。