しかし、その優しさすら届かないくらい、ソニアの心は深いところで傷ついていました(あまりに悲しい物語に、思わずこれが聖闘士星矢Ωであることを忘れたくらいです)。
《あらすじ》 第40話 ソニアの覚悟!因縁の連鎖を断て!メディアがソニアに、「初めてエデンと出会った時のことを覚えていますか?」と水を向け、ソニアはエデンが生まれた頃のことを思い出します。
マルスに反逆したエデンを止めるようとするソニア。彼女の前に姿を現したメディアが与えたのは、蠍座スコーピオンの黄金聖衣!今、ソニアは蠍座スコーピオンの黄金聖闘士として天蠍宮で光牙たちを待ち受ける。その力の前に苦戦する光牙たち。だが、何かを感じた蒼摩が光牙とユナを先に行かせ、ひとりでソニアに挑む。因縁の戦いが再び始まるかと思いきや、何故か蒼摩は戦いを拒む!
(公式サイトより)
「エデン、私の弟!」と無邪気に喜ぶ幼い頃のソニア。
この頃はマルス父ちゃんもちゃんと人間で、蝋燭の化け物に成り下がっていなかった頃。
これがソニアにとっての、家族の原風景だったわけですが…
ソニアに蠍座・スコーピオンの黄金聖衣を与えるメディア。
水瓶座の黄金聖衣もそうなんですが、メディアってそうやってホイホイ黄金聖衣をばらまけるポジションにいるんッスか?
しかも、蠍座とオリオン座には因縁が。
ギリシャ神話ではオリオンを倒したのが神の遣わした蠍で、だからオリオン座は蠍座がある夏の夜空ではなく冬の夜空に出る星座…という話があるのですが、その蠍座の黄金聖衣をソニアに与えることで、神話からの因縁でエデンを倒されることを封じた、と見ることもできます。
…ホンマ、嫌な女です、メディアって。
継母の腹黒い思惑や、報われない父への愛を抱きつつ、こうしてソニアは蠍座の黄金聖闘士になりました。
ハイ・マーシアンという、マルスの軍勢でも実力者だったポジションとか、蠍座の黄金聖衣の"意志"とかってどうなってるんだろう? という疑問を抱いてしまいますが、
「もはや黄金聖衣はアテナのためだけに戦うものではないっ! 大教皇であるマルス様のためにも働くのだっ!」
と言い切られますと、世の中も変わったなぁ…としか言いようがありません。
それはともかく、蠍座の黄金聖闘士となったソニアは、もう滅法強いわけです。
光牙、蒼摩、ユナを次々と吹き飛ばしたソニア。
ユナにとどめを刺しに行こうとしたとき、蒼摩が立ちはだかります。
攻撃しようとする手首を合気道のようにとってそらし、体を躱しつつ跳び蹴りを入れた蒼摩。
かなりトリッキーな動きで、正直「聖闘士星矢Ω」が始まってからのバトルで一番カッコ良いシーンだったと言っても過言ではありません。
更に小宇宙の飛び道具で攻撃してくるソニア。
それを蒼摩はファイティングポーズを取りながら躱しつつ、後ろに庇っているユナに当たらないよう、ジャブで攻撃を壊します。
このフットワークや身のこなしも軽快で、まるで『あしたのジョー』の力石を見ているようでした。
…いや、どちらかというと『ゴリラーマン』に出てきた海江田先生の若い頃に近いかも。
(蒼摩のイメージとはズレますが、面白かったので一連の流れで掲載させていただきました)
ソニアに対して複雑な思いを抱えている蒼摩は、二人で戦うことを決意。光牙とユナを先に行かせます。
(かつてのチャラ夫はそこになく、カッコイイ蒼摩がそこにいました)
そして、本気で戦うことよりも説得を繰り返す蒼摩。
しかし、そんな蒼摩に対し、ソニアは南十字星の聖衣石を砕くことをもって返答します。
「それは、お前が汚れちまう前の姿を知っていた、最後の人を忘れないために持ってたんじゃなかったのかよ!」
蒼摩の問いかけは、一々ソニアの心の奥底にしまい込んだ思いに踏み込んでくるモノばかり。大好きだった親父を殺した相手にそこまで優しさなんてかけられないですよ。山岡士朗は、ちょっと蒼摩の爪の垢を煎じて飲むべきです。(山岡さんの場合、母親が父・雄山に殺されたと言うよりは、暴君親父と、それに甲斐甲斐しく尽くす母、二人の「厳しい芸術家への道プレイ」に巻き込まれた、と見る方が妥当でしょう)
更なる攻撃を受け、馬乗りになられても、なお説得をやめない蒼摩。
「お前が守ろうとしている家族は、お前が生み出した幻影だ。誰もお前を優しく抱いてくれる人がいないだろう?」
「自分を大事にしろよ。家族のために戦っても、自分を大事にしてくれないなんて悲しすぎるだろ!」
と泣ける言葉を投げかけ続ける蒼摩。
ソニアの中にある、無意識に押し殺してきた「矛盾」(家族のために尽くしても、家族は誰も自分を愛してくれないという不条理)を指摘され、ソニアは更に苦悶の表情を浮かべます。
ひたすら説得を重ねる蒼摩を見ていると、主な攻撃方法が「説得」だったKOEIのファミコンソフト「維新の嵐」を思い出します。
ソニアの脳裏には、常にひとりぼっちだった過去がよぎります。
時期アテナということで、軟禁されつつもやたら構われているアリア(それはそれで大変だろうけど)。
一方、誰からも気にかけられず、一人雨の中で佇むソニア。
本当に自分のことを心配してくれたのが、敵(蒼摩の父・一摩)だったというのも悲劇です。ソニアは、愛してくれない父・母の命令により、自分を心配してくれる優しい敵を手にかけるわけですから。
そして今、自分が初めて殺めた人・一摩の息子・蒼摩が、一摩と同じように自分を心配し、語りかけてきます。
ソニアだって、意識下ではわかっているわけです。自分は父・マルス、継母・メディア、異母弟・エデンという「家族」としては排除されていることを。
身体感覚レベルで感じている違和感は、小宇宙の乱れなどの形で、ソニア自身にサインを送っていました。が、特に父に捨てられ、単なる兵士・駒扱いしかされていないという事実を認めてしまうと、ソニアの自我は崩壊しかねないダメージを負います。そのため、ソニアの意識(脳)は、必死になって「私は父・マルスのために戦う! 私が守ろうとしているのは家族だ!」というウソを自分に言い聞かせようとします。
「今更生き方変えられるか!」とばかりに蒼摩の言葉を拒絶するソニア。
しかし、蒼摩に攻撃をかけようとしたとき、ソニアから蠍座の黄金聖衣がはがれ、ソニアは自壊します。
おそらく、父に愛されていないという事実を、意識(脳)のウソがごまかしきれなくなった瞬間だったんだろうと思います。「自分はマルス様のために戦う」という自分すら騙せなくなった嘘を理由にして小宇宙を燃やしたので、小宇宙が暴走して自壊に至ったのでしょう。
そんな切ないソニアの姿を見たとき、蒼摩のセブンセンシズが目覚めます。
その小宇宙は、十二宮の近隣の宮にまで花びらのように降り注ぐものでした。
光牙が「これが蒼摩のセブンセンシズ…」と驚いていたところをみると、普段のチャラ夫キャラからは考えられないような優しい小宇宙だったんだと思います。
それは、処女宮を出て天秤宮に向かうエデンにも降り注ぎます。
しかし、エデンは単に小宇宙にハッとするだけで、姉の死を感じていない様子。
…これ、残酷すぎでしょ。外道な継母は仕方が無いとしても、冷酷な父、そしてソニアが自らを犠牲にして手を汚し、戦い続けてきた未来の王にして最愛の弟たるエデンが、姉の死を何も感じていないわけですから。ソニア、あまりにも可哀想すぎる…
そんなソニアを「これでもか!」と言うくらい冷徹な目で見る継母・メディア。
「やはりあの子は私の娘にはなれなかった」
と冷たく言い放ち、立ち去ります。
はじめからソニアを家族とするつもりもなく、これだけ痛々しい戦いを繰り広げていても心一つ痛まないこの女、絶対サイコパスです。
そして、蠍座の一等星・アンタレスとは、アンチ=アレス(火星に対抗するもの)を意味するギリシャ語です。そのことは作中では語られていませんが、オリオンに害をなす蠍を無害化するためにソニアに蠍座の黄金聖衣を授けたと考えれば、そこにアンチ=アレスの蠍座封じとしての狙いもあったと考えることも十分可能です。
であれば、このメディア、あまりにも外道過ぎます…
全てが崩壊し、一人の哀れな女となるソニア。
自らを犠牲にしながら「家族」のため必死に尽くしてきたことが、体中の傷からうかがえます。…何だか身売りした遊女の話みたいに見えてきましたorz。
そうまでしても愛されることのなかったソニア、ホントもう「不幸の佃煮」状態です。
そんなソニアの最後を看取ったのが、蒼摩でした。
「こっちへ来い!」と手をさしのべた手がつながれたのは、ソニアが命を喪ってからでした。
正直…これはズルいです。
ずっとチャラ夫だった蒼摩が、伏線はあったとはいえ、いきなりカッコ良くなりすぎでしょ。で、怒濤のようにソニアを追い詰める不幸の佃煮設定。自分のことを本気で心配してくれたのが敵しかいなかったという不条理。子供向けに朝6持30分から見せるにはヘビーすぎる話です。
作画が素晴らしく、格闘シーンのクオリティも高く、その上重厚なストーリーとテーマ。文句なしに今までの中で最高の回でした。それだけに言いたい!
「骨が好きとか言ってたタウラスの人、お前の話って何やってん! 謝れ、全俺に謝れっ!!」