2013年1月21日月曜日

[紹介] 青木高夫『ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか』

日本が好成績だと途端にルール改正され勝てなくなる、というのが誤解だと具体的に検証されている。日本人は欧米人と違いルールを作るという意識が希薄。だが、ルール作りに積極的に参画しないと今後も負け続けは必至(crossreview

 「欧米諸国は、ルールが自分たちに不利になると、ルール自体を有利なものに作り変えてしまい、ずるい」という感覚をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。僕も本書を読むまでそう思ってました。

 しかし、本書を読んでその意識は変わりました。本書では、スキージャンプのルール改正や柔道のルール改正、そしてアメリカの自動車産業のルール改正とその結果をつぶさに検証しています。その結果わかったことは、ルール改正によって必ずしも有利になるとは限らず、逆に当該ルール改正により不利になると思われていた側が勝つケースもある、ということでした。
 やっぱり印象論で言うのではなく、きちんと事実・データに当たって検証してみなきゃいけないなぁ、と改めて思わされました。

 これは本書に限らず以前から指摘されていたことですが、日本人はルールを遵守する意識は高いが、ルールをより良いものに作り替えたり、ルール作りに参画していく意識が希薄だ、ということです。これはTPPを巡る議論において賛成派の主張の中にも見られたものだと思います。
 そしてこの話は、民法の債権法改正にもつながってきます。詳細は内田貴『民法改正』(ちくま新書)をお読み頂きたいのですが、一般市民が読んで分かりやすい民法を作る、時代に合わせて改めるという事以外にも、民法改正には狙いがあります。それは、国際商取引における準拠法として日本民法が用いられるようにすることです。ただし、これを「自分たちに有利なルールを相手に押しつける」とセコい次元で解釈すると、準拠法化(法の輸出)は上手くいかないでしょう。むしろ、相手にも喜んで使ってもらえるような良いルールを作り、みんなでシェアする、という思いで作った民法でないとおそらく準拠法として採択されないと思います。

 ちょっと民法改正に話が逸れましたが、ルール改正というのは、なにも自分たちの有利になるような覇権争いというだけの話ではありません。例えば、柔道のルール改正で言えば、日本選手が勝てるかどうかではなく、「本当の柔道の魅力ってこうですよ。それをそのように変えてしまったら、柔道着を着たコスプレレスリングになってしまい、柔道という競技の魅力が死んでしまいますよ」と、柔道本来の魅力を伝え、理解してもらう方向でルール改正にアプローチしていった方が諸外国の理解も得られやすいと思うのです。
 実は、日本のルール改正参画のまずさって、こういう目的・ビジョンがしっかりしてないことが大きな一因なのではないか。そんなことを本書を読んでいて感じました。

 欧米人はずるい! と思っている方にこそ一読して欲しい本です。