この映画は6月に試写会があったのですが、その直後、同時に二人の人物が熱く語っていました。
一人は角田龍平弁護士。そしてもう一人が昨日一緒に観に行った友人です。
しばらくしてもう一人別の友人も大絶賛していましたが、三人の言うとおり、これは文句なしに面白い映画です。2013年で1番の映画と言って過言ではありません。DVDで観るのもいいでしょうが、これは是非映画館で観て欲しい作品です。
映画の内容や見所はお二方のポッドキャスト・ブログ記事を参照していただくことにし、以下、全然まとまっていませんが思いつくままに感想を。
前評判で聞いていた「泡沫候補と言われている人たちは、それぞれに戦う理由を持っている!」「多数派が少数派に対して見せる"数の暴力"」というのは確かに感じました。
登場人物それぞれが、彼らなりの「戦う理由」を胸に、決しておふざけや道楽(だけ)でなく、やるからには真剣に勝ちに行っている姿を目の当たりにさせられます。
この映画を観てから、徒手空拳で必死に戦う候補者を「泡沫候補だ」と嗤うことはできなくなりました。
少なくとも彼らは勝負の舞台に上がっているのです。身銭を切り、見返りを求めず(一部違う候補者もいましたが…)戦う彼らに対し、「入れたい候補者なんていない」「所詮政治家なんて…」とシニカルに言ってるだけで勝負の舞台にすら上がっていない外野は、結局悪罵をぶつけることしかできません。
その悪罵は効果がないわけではなく、候補者の心を傷つけることはできるでしょう。が、そんなことしかできないって、人間としてあまりにみっともなく、悲しすぎます。
とは言うものの、では戦う泡沫候補らに感情移入できるかというと、そこはそう単純な構造にはなっていません。
勝つか負けるかを離れ、自らの一票を投じて府政を託す気になれるかという視点で考えると…正直、厳しいです。
例えばマック赤坂さんの街頭演説って、基本的に音楽をかけて踊るのがメインなのですが、それを元にマック赤坂さんに一票を投じるべきかを判断しろというのは、有権者にとってはハードモードすぎる投票行為と言わざるを得ません。
翻って、多数派の象徴として描かれていた大阪維新の会の橋下徹・松井一郎候補は、泡沫候補たちよりも資金と時間と労力をかけて組織を立ち上げ、多数派を形成するまでの支持を集めてきたわけです。そうすると、泡沫候補が多数派に敗れるのは、ある意味で必然とも言えるわけです。多数派を形成した候補者はそれだけのことをやってきた、ということですから。
(ただ、映画の中でも描かれていますが、橋下市長の「勝者の態度」については、正直鼻白みました)
映画を見終わって心中に残っていたのは、アンビバレントな感覚でした。
理性の部分では「いや、そんな選挙戦を展開しても、そら勝てんで…。本気で当選を目指すのなら、根本的に戦い方を見直さないと…」と醒めた批評がありました。
が、一方で、客観的・合理的に考えれば当選など到底おぼつかない無茶な選挙戦をひたむきに戦う泡沫候補の姿に胸を打たれもしました。
泡沫候補の人たちは、我々の目からは奇矯に映ります。だから我々は「この人達はちょっと変な人なんじゃないか」と簡単に考えてしまいがちです。「ちょっと頭がおかしいから、勝てもしない選挙に出て意味不明なことをしている」…実にわかりやすい理路です。
しかし、彼らは我々が思うよりも遙かに客観的に自分を見ています。彼ら自身も、自分たちの戦い方が選挙に勝つには(それこそ不可能に近いくらい)非常に厳しいものであることは自覚しています。それは映画中のインタビューでも描かれていて、マック赤坂さんが自分の政見放送を見ながら「これ面白いよ。本人がこれだけ面白いんだから、絶対面白いよ」と驚くほど客観的に自分を見つめていたシーンが印象的でした。
一方で恐ろしいまでに常識的かつ客観的に自分を見る目を持ちながら、それでもその常識や合理性に則った選挙戦術を採らないのです。そこにこそ、彼らが既存の政治・選挙制度、権力機構全体に対して訴えたい「No」が、彼らが身銭を切って選挙に出て訴えたい思いがあるのではないでしょうか。
彼らの訴えたいことが、多数派が形成してきた現在の政治・選挙・権力全体に対する違和感の表明であり、その枠組みに基づく常識・合理性への言葉にならない反発であるとするなら、彼らの「不条理」な選挙活動自体は十分合理的と言え、理解できなくもありません(それに賛同するかどうかは別ですが)。が、同時にそれは絶望的な戦いであることも意味します。彼らは巨大な多数派の常識、すなわち「世間」を敵に回して戦うわけですから。そうだとすれば、彼らはまさに「平成日本のドン・キホーテ」と言えるでしょう。
マック赤坂さんの奇抜すぎる選挙活動や、だんだんマック赤坂さん本人よりも「マック化」していく秘書の櫻井さん、そして「よろしくお願いします」と街頭で挨拶だけをする高橋候補などユニークすぎる他の候補者の姿を見せられ、涙が出るくらい笑いました。
だけど、彼らなりの真剣な思いが伝わってくるにつれ、だんだん熱いモノが胸にこみ上げてきます。ただその一方で、釈然としないというか、頭の中にはどでかい「?」も浮かび上がってきました。
正直、この文章も混乱していると思いますが、この混乱こそが、この映画を観た私の率直な感想なんだと思います。
「世間や空気や誰かの言ったことに流されるのではなく、自分の意志をを持って主体的に生きろ」というメッセージは、それこそ飽きるぐらい色んな作品で語られてきました。が、ここまでとんでもない変化球でそれを突きつけてきた作品はありませんでした。
「周りに流されず、主体的に生きる、戦う」とはどういうことなのか、もうしばらく頭と心の中でグルグル回りそうです。