腸を元気にすることで体を元気にする、そしてそこから身体と心を変えていく。そのためのヒントがたくさん載っている。脳(観念・思考)の偏重で身体の声をキャッチしづらくなっている現代人。身体感覚を取り戻したい。(crossreview)
生物の起源は腸にあります。それは図鑑なり生物の教科書をひもとき、単純な生物を見ていただけばおわかりになるでしょう。
単純な単細胞生物から、一本の筒状になった消化管のような生物。そこに神経がくっついて、その神経がやがて脳にまで発達してゆく――。
ものすごく乱暴に要約すると、そういう経過を経て生物は複雑に進化してきたわけです(と、どこかで見聞きしました)。
しかし、現在では脳(神経)ばかりが偏重されがちです。それは脳が「多弁」だからです。
実は身体も"声"を発しています。腸は「第二の脳」と呼ばれることもありますが、脳に次ぐ数の神経細胞が走っています。緊張すると胃腸の調子が崩れる人がいますが、これも身体が発するシグナルの一つと言えるでしょう。
ただ、身体が発する声というのは、脳が発する声と比較したとき、どうしても不器用です。痛みやこり、こわばり、不調といった感覚的な身体のサインに比べ、脳の発する言語・思考・観念というのはものすごくわかりやすい。我々の意識に理解しやすい「言語・思考・観念」といったもので雄弁に語られると、どうしてもそちらの声ばかりが意識され、いきおい身体の声が無視・軽視されがちになるわけです。
そんな状況を視覚的に描き出したのが9頁の図でしょう。脳が優位に立った逆三角形のモデル(エヴァンゲリオンの使徒にこんなのいましたよね?笑)が我々だとしたら、腸と脳のバランス(腸脳関係)を整えてずっしりと落ち着いた正三角形の状態にしよう、というのが本書の提案です。
随分ごちゃごちゃ書いてしまいましたが、本書はそういう説明の書ではありません。もちろん腸や生物のしくみ、ひいては腸脳関係から思考と感覚、そして直観の関係についての説明もあります。が、本書を読んでいて強く感じるのは「これは提案の書だ」ということです。
第一章から腸を元気にするためのテクニック(玄米食やファスティング)が紹介されています。なぜそれらが良いのかの説明はもちろんなされていますが、似たようなことを書いている健康書と決定的に違う部分があります。それは、「こうすると腸が、身体が元気になりますよ」という非常に前向きな提案であるということです。
よくある健康書の類では、「現代人は○○だからダメ」「このままだと××になってしまう」「だけど△△さえすれば改善される」と、不安と脅しの三段論法をとるものが目につきます。正直、こういう論法で来られると、それだけで嫌な感じがします。
本書にこういう嫌な感じを受けないのは、著者が関連する健康グッズを商っていないというのもあるのかもしれませんが(笑)、やはり著者の人柄や「一人でも多くの人に、腸の働きの大切さと凄さを知って欲しい」という思いが滲み出てるからだと思います。文章というのは書かれたものが全てだと思いがちですが、脳が捉える論理・内容だけでなく、身体的な感覚で捉えるものもあり、文体や文章の説得力といったものはそういう要素も加味して形成されるんじゃないか、と本書を読んでいて思いました。
本書の後半では、腸脳関係や身体感覚から「心とは何か」という話に展開していきます。特に、心の問題を身体や感覚の問題で捉え直していくところは非常に興味深く読みました。
西洋的な心身二元論に基づき、心や直観を精神世界の問題として考えると、どうしても脳(理屈・観念)でばかり考えることにつながり、例の「使徒」になってしまいます。が、心(感情)と身体(感覚・直観)と脳(思考・観念)のバランスをとるようにすることで、脳(観念)の暴走を防ぐことができるんじゃないか。逆に言えば、今までどれだけ身体からのシグナル(身体感覚)を軽視してたんだ、ということです。
個人的に、理屈だけの世界に限界を感じ、心身のバランスを取るアプローチに思考のブレイクスルーを感じていた所だったので、本書の内容はまさに天啓を得たようでした。
本書は、身体を元気にする健康の本としても読めます。それだけでなく、腸や身体についての解説も豊富なので、知的好奇心を満足させてくれる本でもあります。その上、思考(脳)の偏重を見直すという意味では思考法の本としても読むことができるオススメ本です。
《追記》 2013年7月20日に本書の続編が出版されるそうです。そちらも合わせてお読み下さい。