表題作の短編を初めて読んだときの衝撃は忘れられません。パスティーシュだから内容は鵜呑みにしちゃダメだけど、国語という科目は塾や予備校でしか解法・ルールを教えてくれないという摩訶不思議な科目なんですよね。(crossreview)
国語が苦手な受験生に、家庭教師・月坂が「ピントが外れている選択肢が正解」「長短除外の法則」など驚きの解答法を伝授するという短編のお話。
著者が吉川英治文学新人賞を受賞した作品です。
思えば国語って、授業中に問題の解き方を習わない変な授業なんですよね。例えば、野球選手を育成するときに、素振りやブルペンでの投げ込み、ランニングにノックなど、バラバラの技術トレーニングはやるけど、実践形式の練習を一切しないと、試合で戸惑いますよね? だけど学校の国語の授業で「問題の解き方」を習った人って、多分いないはずです。勿論僕も、入試問題の解き方を習ったのは塾や予備校、あとは予備校の先生が書いてる本でした。
ろくに解法やルールを教えないから、「国語には正解がない」というようなおよそ試験としてあり得ない話がまことしやかに囁かれたりするわけです。なんというか、そういう国語を取り巻く状況を風刺的に描いたのが表題作だと思います。
これを読んで国語ができるようになるとは思いませんが、国語の問題に対するアプローチを考える一つのきっかけにはなったかなぁ、と今にして思います。
表題作は、吉川英治文学新人賞を受賞した著者の代表作ですが、個人的には本書所収の「いわゆるひとつのトータル的な長嶋節」や「猿蟹合戦とは何か」も好きです。
前者は、一般に非論理的と言われる長嶋茂雄の野球解説を構造的に読み解き、その上マイナス思考の解説をする村山実と対比するというもの。
でも、おふざけで終わらない部分もあって、「長嶋は、言語が拙いんじゃなく、伝えたい技術のレベルが高すぎるのだ」と喝破した辺りは、「なるほど!」と、わりと普通に説得されました(笑)。確かに、一目見て直感的にわかったことを言語に翻訳して伝えるってものすごく難しい作業ですし、天才・長嶋の直観をわかりやすく一般の人に伝えるとなると、それこそ至難の業となると思います。
前者は、丸谷才一の文体をまね、『忠臣蔵とは何か』のパロディをやった短編です。
怪しげな正かなで書かれているのだけで半笑いなんですが、巻末の解説が丸谷才一先生その人で、自分のパロディをやられて閉口しているところで爆笑してしまいました。元ネタがわからない人向けに編集が仕込んだとしたら、この編集、相当「できる子」です!