憲法学とは科学ではなく「上手いこと言う"芸"」という長谷部氏の言は、法学が説得の学問であることを見事に言い当てた比喩だと思った。爆問・田中さんのインタビュアーとしての資質は今回も遺憾なく発揮されていた。(crossreview)
憲法学の議論については、昔からわかったようなわからないような、そんな感じを受けていました。本書を読んで、その理由が何となくわかったような、やっぱりわからないような、そんな感想を持ちました(笑)。
本書を読んでも、憲法学の知識が得られるわけではありません。ですから、憲法九条の改正の是非といった"脂っこい"問題や、一院制or二院制? 地方分権をどこまですすめるか? 新しい人権をどこまで条文化するか、など、いわゆる憲法マターな話は全くと言って良いほど出てきません。もっと形而上学的というか抽象的な議論に終始しています。
ただ、本書を読んで「なるほど」と思ったことがあります。
それは、憲法学は、あるいは法律学は科学ではないから進歩がない。むしろ芸のようなもので、「うまいこと言う」もんだ、と。そして、科学ではないので、(科学でいうところの)進歩もない。
確かに、時代が変わって価値観が変われば、それまで正しいと思っていたその根底が変わるわけですから、それに伴って法や正義も変遷していきます。こういうと語弊があるかもしれませんが、その時代時代の価値観にフィットした「芸」としての考え方に説得力を感じ、それがまた時と共に移ろいゆく。
そして、国家のあり方や個人の人格的生存・幸福追求など、抽象的なテーマを考える憲法学は、他の実定法よりもダイレクトにその価値観の変遷に巻き込まれやすい…のかなぁ、とまたわかったようなわからないようなことを読んでて感じました。
わかったようなわからんような、結論の出ない感じになる理由に触れられたような気はしました。って、最後までフワフワした話になっちゃったなぁ…。
そうそう、本書でも太田さんは相変わらずでした。話題やテーマよりもそのとき自分の気になったことを優先し、人の話を反復するときには一度「太田語」に翻訳してアウトプットしちゃうので、話の流れを遮っているのです。
翻って田中氏のインタビュアーの才は光ってました。長谷部先生がインスピレーションを受ける発言は田中氏の受け答えの中にあることが多かったように思います。