2013年12月4日水曜日

[紹介] 美内すずえ『ガラスの仮面』(1巻)

言わずと知れた演劇大河マンガの大傑作!これでもかと言わんばかりの試練の中で演劇にのめり込んでいく薄幸な天才少女・北島マヤ。読み返してみてとにかくエピソードか濃い!濃すぎる!読んでないのは人生損してる!(crossreview

 言わずと知れた、演劇大河ドラマの名作マンガ。

 主人公は一見平凡な少女・北島マヤ。だが、マヤには底知れぬ演劇の才能があります。一度観た芝居は台詞から動作から全て暗記できてしまい、芝居を目にすると我を忘れて没頭してしまう…そんなマヤに父はなく、母は中華料理店のしがない住み込み店員。出前もろくに届けられないマヤに「本当にこの子はチビでドジで何の取り柄もないんだから…」と、今なら精神的な虐待と言われかねない物言いを日常的に娘に浴びせます。

 一方、幻の名作「紅天女」を演じさせられる女優を育てようとしている往年の名女優・月影千草は、公園で子供相手に芝居を演じていたマヤを観て愕然とします。
 あはは…
 ああ
 わかったよ
 ブタの親分
 かい
この芝居を観てマヤの才能を見抜いた月影先生、別の意味でもスゴすぎます。

 もう第一話から「何事が起こったんだ!?」という展開です。
 「椿姫」の舞台を観に行きたいから、と年越しそばの出前150件を取り憑かれたようにひとりでこなすマヤ。作者の美内先生が、大晦日の横浜港では年越しに合わせて一斉に汽笛を鳴らすという話を聞きつけ、それを描こうとした結果、マヤは風にあおられた「椿姫」のチケットを取りに冬の海にダイブ!
(ちなみに、このときチケットを持っていた杉子さんがはじめは「岡持の娘に観劇なんてぜいたくなのよ」と言っていたのが「あなたには観劇なんてぜいたくなのよ」と修正された、という話を聞きましたが、本当でしょうか?)

 学校の文化祭で「国一番の花嫁」という劇をすることになり、ブスでパーのビビという役をすることになったマヤ。マヤの母は、マヤがブスでパーの役を演じて他人様に笑いものになるのがあまりに辛く、芝居を見に行きません。
 が、母に一世一代の見せ場を観てもらえない悲しみとビビの気持ちがリンクし、マヤは脚本無視の超感動ビビを熱演。観客から喝采を攫います。
 いやー、今読み直すと、この「国一番の花嫁」のビビでどう笑えばいいのかわかりません(笑)。「北島は家が裕福じゃないから、ボロギレを縫い合わせたドレスでいいぞ」という今なら大問題になるような学校の先生の配役決定にしても、時代を考慮したとしてもあんまりです。
 が、そんなツッコミを野暮に感じさせるくらい、この物語には力があります。「これでもか」というくらい不幸と試練のフルコースがマヤに襲いかかり、マヤはそれに耐えながら成長していく姿は、少女漫画版『巨人の星』とでも言うべき様相を呈してきます。

 マヤの母親と月影先生が揉め、月影先生がやかんの熱湯を浴びせられるエピソードもなかなかに壮絶で、何で劇団設立の発表会見の時にやかんでお湯を沸かしてたんだという問いを忘れさせます。
 大女優・姫川歌子の娘である天才・姫川亜由美とのパントマイム対決では、レコードを「はい」と渡すシーンが『あしたのジョー』のクロスカウンターが決まったシーンのように描かれており、「BSマンガ夜話」で呉智英さんが言っていたように「ド少女マンガ」だなぁとしみじみ思いました。

 少女漫画で主人公が女の子、ということで男は感情移入しにくく、どうしてもギャグっぽく受け取ってしまうのですが、気がついたら笑いながら物語にグイグイ引き込まれています。
 1976年に連載が始まってから今もまだ完結していないため、ハマると続きが気になって仕方が無いという重大な副作用を生じさせますが、これを読んでいないというのはやはり人生を損していると言わざるを得ません。それくらいの大名作です。