2013年10月21日月曜日

[紹介] 橘玲『不愉快なことには理由がある』

「週刊プレイボーイ」連載記事の集成。科学(特に進化論や進化心理学など)を引いて政治・経済・社会の問題を読み解くのだが、これが滅法面白い!タイトル通り結論としてはあまり愉快な話がないのだが考えさせられる。(crossreview

 「週刊プレイボーイ」連載記事の集成。
 科学(特に進化論や進化心理学など)にてらして政治・経済・社会の問題を読み解くのだが、これが滅法面白い!
 特に衆議院選挙を控えたこの時期、デモクラシーや合理的な選択について書かれた第1章・政治のところだけでも読んで欲しい。「『首相が変われば日本はよくなる』という幻想」という節にドキッとさせられるだろう。また、「有権者はバカでもいいのか?」では『「みんなの意見」は案外正しい』の有効性と成立条件について説明されているが、読み終えると今回の選挙で「みんなの意見」を信頼できるかどうかについては…やはり一抹の不安を覚えてしまった(笑)。
 やや極論に感じる部分もあるが、それも含めて知的好奇心を刺激される興味深い議論がなされている。また、各節の最後に参考文献が紹介されており、ブックガイド的な楽しみ方もできる。

 非常に興味深い議論ではあるが、結論としてはタイトル通りあまり愉快なものではない。世の中、そうバラ色の結論があるわけではないから悩みが深いわけで、物事の構造を知ってもそれは往々にして「身も蓋もない真実」だったりするわけである。
 だが、絶望的だろうと身も蓋もなかろうと、事実をきちんと認めることから始めるしかない。問題点を直視しないでいるのは結局逃避でしかなく、問題が解決しないどころか悩みをこじらせ、事態をより悪化させてしまうかも知れないからだ。

 「みんなと違う視点を提供して意見の多様性に貢献する」という本書の目論見は成功している。知的好奇心をくすぐられるような本を読みたいという人にオススメの一冊。