安倍晴明と源博雅コンビが送る、平成怪奇謎解き絵巻の第三巻。
■黒川主
いきなり裸の女が庭の池を泳ぎ、口で鮎を捕まえるというシュールなシーンが、カラーの扉絵になってスタート。
この裸の女というのが、鵜匠・賀茂忠輔の娘・綾子。綾子のもとに足繁く通い、綾子を抱き、泳がせと好き勝手にする鹿賀丈史似の貴族、それが黒川主です。
忠輔に内々に事件の解決を頼まれた博雅は、晴明と共に賀茂邸へ。黒川主の正体やいかに!…って、表紙カバーに半分くらい答えが描いてあるけど(笑)
このエピソードの中に、思わず付箋を貼ってしまったくらいお気に入りのシーンがあります。それが那智の滝の話。那智の滝は、それ自体が巨大な女性器のような形をしているため、散々煩悩を追い払おうと長年修験道の厳しい修行に耐え、熊野古道を歩いてきた修験者が那智の滝を見てぶっ飛んでしまう、という話が紹介されていました。
私、この話がもう大好きで大好きで…(笑)。何というか、禁欲とか修行とか、そういうしゃらくさいことを鼻で笑い飛ばすような自然のおおらかさを感じさせられます。
この話の最後のオチも結構好きで、
博雅
おれたちより
弱く見える者たちは
こちらで
案じて
やるほどに
本当は弱くは
ないのだよ
むしろという晴明のセリフにシビれます。人間は"同情してやった"ことがアホらしくなるくらいしたたかだし、しぶといし、強いんです。さらっとギャグチックに流してはいますが、このシーンは、博雅の優しさが実は根っこの部分で傲慢なものによって支えられていることが描かれている、かなりスリリングなシーンだとも言えます。
おれたちより
よほど
したたかな
ことも
あるのさ
■鬼やらい
こちらは玄象と博雅、祐姫と博雅の妙な関係性が微笑ましいです。晴明は1巻で漢多太の魂を玄象に取り憑かせましたが、それにしては随分ポップな性格になっているような気がします。どうやら玄象当人(?)の性格のようですが、博雅の困らされっぷりを見る限り、本当にあの解決で良かったんだろうか…と思わなくもありません。