遂に日本に帰還した大黒屋光太夫一行!苦難の連続、仲間達との別れに涙!林子平苦労の結晶『海国兵談』が版木まで没収される憂き目に涙!「尊号一件」は、現代の「政局」一辺倒の政治報道を彷彿とさせる本末転倒ぶり。(crossreview)
冒頭、最上徳内の人生を振り返る中で、江戸時代の数学史が紹介されているのだが、冲方丁『天地明察』を読まれた方は、ここを読まれただけでニヤニヤしてしまうこと請け合いです。
猫の目のように変わる幕府の蝦夷政策に振り回される最上徳内。蝦夷地調査における最大の功労者・青島俊蔵を獄死させた幕府が、掌を返して徳内を取り立てると言い出します。あまりの無策と横暴に腹立たしさも感じる徳内ですが、アイヌや蝦夷地、先に死んでいった同士達の思いを考えると、感情的になって拒絶できない徳内の、胸中に去来する思いは複雑です。
ただ、偉くなったことが良かったのかどうかはよくわかりません。徳内一人であればイジュヨに追いつけただろうに、供回りを連れていたがために、ついに逃げるイジョヨに追いつけませんでした。「身分が高くなるということは、これほど不自由なものなのか…」という独白が胸に迫ります。
大黒屋光太夫一行は、ついに女帝・エカテリーナのおわすペテルブルクにまで到達します。
が、生き残った仲間も洗礼を受けてしまい、日本に帰れなくなっていきます。死者以外に脱落者も出てくる中、それでも光太夫は日本に帰ることを諦めず、皇帝の避暑地で遂に謁見。そして、帰国の許可を得ることが出来るのです。
現地に残る仲間達との別れの末、ラックスマン(息子の方)と共に蝦夷地まで戻ってこられた光太夫一行は3人にまで減っていました。が…
一方、林子平は遂に版木を完成させ、『海国兵談』(全16巻)を上梓します。といっても手元に紙が無かったため、38部しか刷れなかったのですが…。
しかし、程なく子平は幕吏に捕縛されます。そして、松平定信の意向により、蟄居だけでなく出版禁止・版木没収という憂き目に遭います。長年、手ずから版木を彫ってきて、やっと完成した版木。それを松平定信は没収して焼却処分としてしまうのです。
かかる理不尽は言葉では表現できないでしょうが、それでも子平はへこたれません。手元に残った原稿を元に、写本5冊を残したそうです。
この頃、寛政三奇人の一人に数えられた高山彦九郎は緑毛亀運動をしていたのですが…何かこの人にはピンとくるものが全然無いんですよね…。
この頃、松平定信は、重大な政治問題にかかずり合っていました。それが朝廷との「尊号一件」なんですが、こういうものを「政治」と言ってしまうことには心理的に強い抵抗を感じます。「尊号一件」を見ていると、政策論争よりも「政局」に現を抜かして実際の政治がおろそかになっている現代日本の政治状況やそれを報道するマスコミと重なって見えてきました。