2013年5月8日水曜日

[紹介] みなもと太郎『風雲児たち』(10巻)

松平定信の寛政の改革がいかに愚かなものであるか…読んでいて本当に腹が立つ。イデオロギッシュな倹約令は却って商品作物を作っていた農民を困窮させ、文化・学問への締め付けは愚民か政策としか評価のしようが無い。(crossreview

 大黒屋光太夫一行はイルクーツクに到達。アイヌの反乱とその結末。高山彦九郎は遂に故郷・上州と決別――

 だが、圧巻はやはり松平定信の寛政の改革でしょう。
 質素倹約を推し進め、一切の贅沢を禁じました。が、例えば絹を贅沢だと禁じても、庶民が既に持っている絹は死蔵されるだけで無駄となり、木綿しか着られないとなると木綿の値段がつり上げられます。一方で養蚕農家は大打撃を受けることに。イデオロギー的で近視眼的な倹約令がいかに非現実的だったかがわかります。
 寛政異学の禁では、朱子学以外の学問を禁じるばかりか、庶民が学問をすること自体を嫌ったという、これが愚民化政策以外の何物でもないことは言うまでも無いでしょう。
 何でもかんでも禁止、禁止の嵐。その結果、庶民の生活から明るさと活力は失われることになります。

 あと、個人的に面白かったのが、ペテルブルクの日本語学校の話。開校当時は、大阪の手代・伝兵衛の関西弁で教えていたが、時代を経て今度は薩摩出身の漂流民が流れてつく。何とか薩摩弁丸出しの露日辞典を作るも、次に流れ着いたのが南部津軽訛りの男達だったために、遂に辞典は使われなくなった……という話がおかしくも切なくて(笑)。

 私は、結果を知っている現在の価値観で歴史に評価を下したり、歴史を人類の膨大な成功・失敗の事例集として見るような見方があまり好きではないのですが、それでも教訓めいたことをいろいろ考えられずにはいられなかった10巻でした。