2012年5月7日月曜日
[紹介] 島田紳助『自己プロデュース力』
このタイミング(2011年8月26日現在)での紹介もアレですが(笑)「紳竜の研究」の講義の起こしです。上岡龍太郎の教えが断り無く含まれてたり後付けの先見性アピールがあったりもしますが、戦略的目標達成の方法論では一読の価値アリです。(crossreview)
DVD「紳竜の研究」に収録されている、著者がNSCで行った講義の起こし。
DVDの方は漫才研究の教材を主目的に作成されたのが、意外なことに企業研修用として売れたという逸話がある。それもそのはず、同書の内容は「成功するための戦略の立て方およびそのノウハウ」だからだ。
漫才師として著者がまずやったことが「教科書を作る」ということ。
売れている漫才師の漫才や、名作といわれた漫才を徹底的に研究・分析してそのエッセンスを抽出している。漫才を書き起こし、面白い漫才もオチは8割方同じであることや、わざと大して面白くないネタも「見せ球」として混ぜているなどを分析する下りは、さながら「漫才のリバース・エンジニアリング」である。
孫子の「彼を知り己を知らば、百戦して危うからず」の言葉通り、著者は自己分析とライバルの分析もかなり綿密にやっている。
ライバル(既に売れている先輩や同期)の実力を分析し、勝てない所を的確に見切り、自分が勝てる戦場を設定してその分野に全力を投入する。更に、やるべき事を見据えない努力については、単にそれが無駄なだけでなく「無駄な努力は無駄な筋力をつけてしまう」とその有害性を説くのは卓見。必死で努力する大切さも説く一方で、前提として努力の投入先を見据えろというのは肝に銘じたい。
漫才を題材にしているが、その考え方は極めて戦略的であり、ビジネスにも参考になる。企業研修で使われるのにも納得。
他に印象に残ったのは「心で記憶しろ」ということ。これも座学や本からだけ、つまり頭で理解しただけの知識・記憶は使えない、使える知識・記憶というのは自分の身体感覚に根ざしたものでなければならないということを含意している。これはあらゆる勉強・スキルに共通する指摘である。
他にも、著者と親交の厚かった上岡龍太郎さんの教えも語られている。野球選手を例にした物知り一点集中の話だ。
野球について詳しいと思われたかったら、控えの選手などちょっとマニアックな選手についてだけ徹底的に調べて語れるようにしておく。そうすると世間は「あれだけマニアックな選手に詳しいんだから、一軍のスター選手については当然それ以上に詳しいだろう」と勝手に誤解してくれる。芸人の物知りはその程度でいい、というのが上岡氏の言だが、この辺のやるべき事の見切り感覚も効率的・戦略的な思考の反映と言えるだろう。
本書の内容、特に戦略的目標達成の方法論とその考え方には学ぶべきものがたくさんある。著者の名前で敬遠している人にこそ読んで欲しい一冊。