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2020年5月11日月曜日

[紹介] ゲルト・ギーゲレンツァー『数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活』=『リスク・リテラシーが身につく統計的思考法』


本書の単行本を本屋で見かけ、偶然手に取ったのは15年以上前のこと。
ちょうど父親にガンが見つかり、父に手術の説明を自然頻度を用いてしたのを覚えている。

昨今の新型コロナ騒動で、「そう言えば昔読んだことがあったな」と思い出した。
この動画(↓)の最後でも本書の単行本を薦めていたので、久し振りに読み返してみることに。


ただ、本棚を見ても見つからず。
そういえば文庫本が出たから買い直そうと手放したような…
これだから断捨離とかこんまりとかはロクでもないんだよ!
…と八つ当たりもそこそこに、Amazonで調べてみるとビックリ!
絶版になった単行本にプレミアがついてる!
書名を変えた文庫本も絶版となっており、中古しか出回っていない状況。
値崩れも起きてないので、いよいよ良書を手放してしまったと後悔。

Amazonで中古の文庫を買ってから、何気なく本棚を見ると…あれ?
あった…!
断捨離とかこんまりにビッシャビシャの濡れ衣を着せてしまって申し訳ない、とは露ほども思わず、ただただ胸に去来するのはやっちまった感だけ。
つくづく人間というのは勝手な生き物です。

新型コロナによる緊急事態宣言下にある現在、15年以上前に読んだときより本書の内容理解が進むのに驚きました。
検査結果の偽陽性・偽陰性の説明が面白いように頭に入ってくるだけでなく、気がつくと、本書で繰り返し登場する事例を見ると読み進めるのをとめ、メモ帳に表を書いて楽しく計算している自分がいました。

「なぜ数学を勉強しないといけないのか?」
中学生だった自分も思っていたことですし、塾講師をしていた頃には少なくない生徒から言われた定番の問いです。
今までの自分だったら「別に、銀行強盗に人質にされたとき『この連立方程式を解けた奴から解放してやる!』とかは絶対ないけど、論理的な思考の訓練としては数学が一番最適なんや。目に見えない思考のOSの部分を鍛えるためや」とか、自分自身しっくり来ていない観念的な理由づけでおそらく生徒を煙に巻きながら、自分自身も納得したつもりになっていました。
が、今ならハッキリ言えます。
「論理的にものを考える前提として、データや数字を理解できないといけない。
そのためには確率・統計、引いては数学の素養がないといけないから!」

テレビ朝日・モーニングショーを筆頭に、特にテレ朝・TBS系のニュース番組やワイドショーではインチキ専門家を呼んでデマと大差ない間違いを連日垂れ流し続けています。
そういうインチキ専門家や、自分たちが今流している報道内容についてろくにリテラシーを持ち合わせていない報道番組の内容を「これは間違いだ!」と見抜けるようになり、インチキ情報に惑わされないためにも、数学は絶対必要だとつくづく思います。(学生時代、もっと真剣に数学を勉強してれば良かった…後悔はいつも後からやってきます)

本書は大きく3部に分かれており、1部ではリスクについての考え方がコンパクトにまとまっています。
2部では乳がんや前立腺がん、DNA鑑定、再犯可能性、と医療と司法の具体例をとおして1部で見た内容をさらに具体的なケーススタディとして見ていきます。
3部では数字に弱いとどれだけ騙されるか、そしてモンティ・ホール問題が紹介されており、本書の内容を復習しつつ、数字でかつ具体的にものを考えるとはどういうことかを説明してくれています。

病気の検査にまつわる偽陽性・偽陰性の話も面白かったのですが、もう一つ面白かったのが訴追者の誤謬に関する話。
皆さんはこれから紹介する説明の間違いがわかるでしょうか?
ある殺人事件(ドイツの事件)で、被害者の爪の中に血液が残っており、これが被告人の血液型と一致した。
裁判で大学講師が、ドイツ人の17.3%がその血液型に一致すると述べた。
第2の証拠として、被告人のブーツについていた血液があり、これが被害者の女性の血液型と一致した。
くだんの専門家は、ドイツ人の15.7%がその血液型であると証言した。
二つの確率を掛け合わせると、この二つが偶然に一致する確率は2.7%と出る。
したがって、被告人が殺人者である確率は97.3%である、と専門家証人は言った。
(文庫244頁を一部簡略化した)
偶然に一致する確率が2.7%と言われるとほぼ間違いないように思いがちです。
が、本当にそうなのでしょうか?
この事件が起きた街に犯人の可能性がある男声が10万人いると仮定する。
このうち1人が殺人者で、ほぼ確実に両方の証拠と一致する(鑑定の際にサンプルが取り違えられるなどの誤りがないことを前提とする)。
犯人以外の9万9999人のうち、役2700人(2.7%)もこの二つの証拠と一致する。
したがって、二つの証拠に一致する被告が殺人者である確率は、専門家証人が述べた97.3%ではなく、2700分の1で、0.1%以下である。
(文庫245頁を一部簡略化した)
2.7%という数字を具体的な数字に置き換えて考えると、97.3%だと思っていたものが0.1%以下だったことがわかります。
言われれば納得なのですが、確率を自然頻度に置き換えずに考えることがいかに危険かを思い知らされました。

こんな面白い良書が絶版って、早川書房さん何やってんの!


以下は本書を読んでいて興味深かったところの抜粋メモ。

・フランクリンの法則「死と税金以外に確実なものはない」
・リスクを語るときは確率ではなく頻度(自然頻度)。
 ×30% → ○10人のうち3人 + 頻度のもとになる集団の特定
・不確実性(事実)←→安心感を得たがっている(心情)
・不確実性を伝えると、プラセボ効果が消えてしまう
・医師・患者・製薬会社、それぞれにとってリスク・コストとメリットは違う
・カント『啓蒙とは何か』→「知る勇気を持て」(Sapere aude)
・主観的確率…「手術の成功率は80%です」→根拠も比較対象もない
・一度限りの出来事の確率…主観的確率になりやすい
・「降水確率30%」とは?…定義があいまいならハッキリしたことはわからない
 ①1日のうち30%の時間、雨が降る
 ②ある範囲の30%に雨が降る
 ③同じような日のうち10日に3日は雨が降る→○

・絶対リスク減少率…0.9%ダウン 治療なし(偽薬)で死んだ人々の割合から、治療を受けていて死んだ人々の割合の差し引き
・相対リスク減少率…22%ダウン 絶対リスクの減少値を治療なしで死んだ人の数で割ったもの
・要治療数(NNT)…111人 一人の命を救うために何人を治療しなければいけないか、という数(=110人には無駄な治療ということ)
 →マスコミが伝えたがるのは「相対リスク減少率」、大きな数字が出るから
・条件付確率…偽陽性の問題
・(p66)なぜ確率をもとに正しく推論することが容易でないか?
 →不確実性・不完全な情報から推測するという確率論自体が人類史の中では比較的新しいものだから
・(p80)陰性・陽性のマトリクス…偽陽性・偽陰性が間違い=問題
 cf.分類性能の指標・まとめ

・暴力の予測…今後この犯罪者が再び暴力行為を振るう確率
・確率と自然頻度では優位的な差が出る(確率の方が高く出る傾向)
・「目盛り効果」…ハッキリした数字がわからないとき、回答欄の目盛りに回答が左右される