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2012年6月4日月曜日

[紹介] 神門善久『偽装農家』

神門善久『偽装農家』

食糧自給率や農政に関して何となく持っていたイメージが崩れた。新規参入を阻害し、真面目な農家に迷惑をかけつつ、税制面で優遇措置を受けながら違法脱法転用をして国土を荒らす偽装農家の実態はもっと知られるべき。(crossreview

かつて故・青木雄二が『ナニワ金融道』の単行本コメントで、大要次のようなことを言っていました。
我々が農家になろうと思うと1ヘクタールの土地を用意しなければならない。農地の売買は農家間でしか認められない。そんな既得権益と補助金にまみれた体制を変えるには選挙しかないが、農村部の票は都市部の票の何倍の価値もある(1票の格差の問題)。そして、あろう事か最高裁はこれを合憲と言っている。
本書を読んで、このコメントの意味がよくわかりました。

非常に薄い本書には、日本の農業を取り巻く問題点がコンパクトにまとまっています。が、その中身は正直ブルーになるような実態ばかりで、食糧自給率の問題一つ取っても、池上彰さんの”キレイな説明”からは聞かれない話がいっぱいです。

偽装農家のやりたい放題に農業委員会のデタラメ。既得権益と補助金漬けで、違法転用が横行する実態は読んでて暗澹たる気持ちになります。
もちろん真面目に農業を営んでいらっしゃる農家もありますが、偽装農家はその農家にも迷惑をかけ、新規参入を事実上拒絶して耕作放棄をしています。下手に人に貸したりすると農地を売って儲けられそうなときの障害になるからという理由については、都市部の人間はもっと怒って良いと思います。

偽装農家の問題を掘り下げていくと、日本の都市計画が滅茶苦茶であることに行き着き、問題は農村だけに留まらず都市部も含めた日本の土地利用体制の問題に至ります。そしてそれは、マスコミで散々言われている「既得権益にしがみついて甘い汁を吸っている奴が得をする」というよくある構図だったりもします。
しかし、偽装農家の話はマスコミではあまり取り上げられません。TPP問題でも象徴的なように、農家は「保護の対象」として語られるのが半ばお約束と化しています。マスコミも、政府や官僚だけでなく、こういう問題をこそ報道していくべきだと思います。

94頁のブックレットで字も大きく、すぐ読めますが、色々考えさせられる本です。詳しく知りたい方は著者の『日本の食と農』へ進んで下さい。