心理的な部分も含めた交渉での考え方やテクニックなどを記した本。少し露悪的なのと、一部ヲイヲイと思うところもある。著者が交渉を”ラフプレイもありな全力プレイのスポーツ”のように捉えているように感じられた。(crossreview)
著者の一部の本は、著者が大阪府知事になった頃から、Amazonでプレミア価格になっているようです。
なので、僕は図書館で借りて読みましたが、この前紹介した木山泰嗣『弁護士だけが知っている 反論する技術』と比較したとき、ちょっと生々しくてどぎつい…と言うよりも露悪的な印象を受けました。
本書では、交渉における主張は、究極的には「譲歩できないもの(主張)」と「譲歩できるもの」に分けられるとします。
そして、人を動かすには、「利益を与える」か「熱意をもって説得する」しかありません。が、著者はここで「仮想の利益」つまり利益を与えたように思わせるという第三項を作り出し、それを効果的に使うことで交渉を有利に運べと言います。これ、やり過ぎると色々問題になりそうですね(笑)。もっとも、本書にあるのは、相手方に対してまだ起きていないリスクを指摘し、それを回避するために必要なコストである、と提案することでこちらの条件を呑ませると言うものですから、そのレベルでは十分アリな手段だと思います。
あと、本書では交渉の内容ではなく、交渉でのポジション争い(特にメンタル面での優位性確保)に記述が割かれています。例を挙げると、相手方の事務所では出されたものには一切口を付けないようにし、トイレも借りないようにして小さな事でも借りを作らないようにしたり、相手が声を荒げれば声を張り返して声量で負けないようにする、などとにかく立場を互角に保つことに腐心しています。
本書を読んでいると、著者の価値観や交渉・議論についての考え方がよくわかります。
著者は学生時代にラグビーをやっていたそうですが、交渉や議論もそれと同じようなものと捉えているようで、交渉にはスポーツほどハッキリとはしないまでも、ある程度明確なルール(枠)があり、その中では多少のラフプレイも含めて全力を尽くすべきだ、という価値観が見え隠れします。
こういう著者の交渉術を見ていて気づいたことがあります。この価値観というのは、、国際社会の場において居丈高に振る舞う国々の外交姿勢に近いと言えないでしょうか。
一般的に日本人は(特に日本人同士だと)他者志向性が強く、互譲的な態度を取りがちです。
が、国際社会の場ではこの反対で、お互いが持てるものをぶつけ合った果てでの均衡に妥結点を見出すようなところがあります。まさにラグビーで全力を尽くして戦った後にノーサイドとなるようなものですが、日本外交はこの手の強硬な主張にはすぐに腰砕けになってしまい「怒らせた=何かこちらサイドに悪い点があるに違いない」と発想するのか、すぐ譲ってしまいます。
向こうは押し出す価値観で攻めてきますから、当然、譲れば譲る分だけ押し込まれます。
日本人一般のメンタリティが国際社会における日本の姿勢に近いとするならば、日本社会において橋下徹という政治家が「強い」のもわかる気がします。
…と、そんなことをつらつら考えながら読んでいると、実はこの本って、著者や大阪維新の会に反発を覚えている人こそ読むべき本なんじゃないか、と思うようになりました。「敵」がどういう戦い方をしてくるのかを研究するのには格好のテキストですから。
ということで、本書は、特にアンチ橋下派の方に特にオススメです!(笑)