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2013年6月24日月曜日

[紹介] 三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』

鎌倉の古書店を舞台にした、古書の世界をテーマに展開されるミステリ短編集。章のタイトルがそのまま古書情報になっており、話の中ではその古書にまつわる蘊蓄が上手くミステリの素材として使われている。オススメ!
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 鎌倉のひなびた(?)古書店・ビブリア古書堂を舞台にした、古書にまつわる短編ミステリ集。北村薫の「円紫師匠シリーズ」や米澤軽穂の「古典部シリーズ」のような、"人の死なないミステリ"で、読み口あっさりで楽しめました。

 章のタイトルが古書情報(著者名『書名』(出版社名)と文献紹介のルール通りで、大学のゼミのレジュメ制作を思い出しました(笑))で、それらの本のあらすじ・内容をうまく利用したお話に仕上がっています。少し前に田中啓文の「笑酔亭梅寿謎解噺シリーズ」を読んではいましたが、上方落語のネタを下敷きにしてトサカ頭の主人公と豪放磊落な師匠・梅寿のムチャクチャな登場人物たちのミステリだったので、受ける印象は180度違いました。(誤解の無いように申し添えておくと、どちらの作品もそれぞれ十分面白いです)

 幼い頃に祖母との間であった"ある出来事"をきっかけに、活字が読めなくなった主人公・大輔。そんな彼が、亡き祖母の蔵書を処分する際に、岩波新書版の夏目漱石全集に夏目漱石のサインがあることを発見。その真贋を確かめるためビブリア古書堂を訪れるところから話が展開しはじめます。献呈署名や古書店の値札に秘められた違和感から、祖母が残した謎に迫っていく第一話。オチが全然見えなかったので吸い込まれるように読みました。
 続く第二話は小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』と知らない本。50がらみのオッサンと女子校生の間に起きたメルヘンみたいなミステリです。せどりについては何となく知っていましたが、本書に出てくるのは古式ゆかしい(?)せどり屋さんで、私がブックオフで見かけたのは、105円コーナーを流しつつ気になった本があれば片っ端からスマホでAmazonの値をチェックする、そういう人でした。かくいう私も大学時代、恩師の教科書がブックオフで投げ売られているのを見つけ、専門書を高く買ってくれる古書店に持ち込んで利ざやを稼ぎ、帰りに友人とうどん食うて帰ったことがあるので偉そうなことは言えませんが…
 ヴィグノグラードフ クジミン『論理学入門』も青木文庫も私は存じませんでした。本の内容(論理学)の使い方はちょっと物足りないかも、ですが、古書の知識も「へぇ~」でしたし、何よりええ話だったのでオールオッケーです。
 そして最後が太宰治の『晩年』。袋とじの元祖みたいな本(こう言うと稀覯本の値打ちも台無しですが…)と、大輔自身にも関わる謎、そして身に迫る危険、とスリリングな展開でした。

 あとがきに、本書のモデルになった鎌倉の古書店はなく、想像を膨らませて書いたとありました。
 そう言えば、予備校の先生が「私は鎌倉出身ですが、鎌倉が嫌いです。あんな図書館も本屋もろくに無いところ…」と授業中にボヤいていたことを覚えています。私自身は鎌倉に行ったことが無いので、先生の言う「本が無い」というレベルがどの程度のものなのかはわかりませんが、何となく「こんなところで古書店やってても、まぁお客さんは来ないだろうなぁ~」とか勝手なことを思いながら読んでいました。まぁ、今はネット販売があるから、モノさえちゃんとしたものが仕入れられるのなら、そういう立地条件もある程度は緩和される方向にあるのかもしれませんが。

 栞子さんについては、美人だしスレンダーだし巨乳だしで外見的には言うこと無しですが、実際に会うと、あの『おおきく振りかぶって』の三橋君レベルのきょどりっぷり*にイラッとくるだろうなぁ…(じゃあドラマで栞子さんを演じてるあの人が良いかと言われると、それはまた別の話…)。
 それに、ここだけの話ですが、私の周囲を思い返したとき、本の話や蘊蓄になるとスイッチが入って堰を切ったように語り出す女性って、どちらかというとビジュアル的には栞子さんの対極にいるような方しか思い浮かびません。信長・秀吉・家康が名古屋から美人を連れ出したせいで…という俗説がありますが、もしかすると源頼朝が幕府を開いたときにヲタ系美女を鎌倉にかき集めたというような事実があるのでしょうか。…今度網野善彦先生の著作を読み返してみます。

*きょどる…挙動不審っぷりを全開にすること。具体的には目を泳がせながら故・大平正芳首相のような「あー、うー、うー」と言うとそれらしくなる。一部の若者が用いる造語と思われる。

 えらい方向に話がずれていきましたが、軽く読めて楽しめるオススメミステリです。