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2013年6月12日水曜日

[紹介] 松井優征『暗殺教室』(1巻)

地球を吹き飛ばすと言ってる凶悪なタコ型生物が学校の先生に。そして生徒は先生の暗殺を狙う…というぶっ飛んだ設定のコメディ。だけどしっかり教育モノをやってる。シュールとリアルの取り合わせが絶妙!オススメ!(crossreview

 『魔人探偵脳噛ネウロ』の作者の新連載。しかも表紙が鬼頭莫宏『ぼくらの』のコエムシを思わせる感じで気になっていました。

 購入の引き金になったのはkindle paperwhiteを落手したこと。
「電子インクのkindleでマンガを読んでみるとどういう感じになるんだろう?」
 という実験的要素もあってポチッたわけですが、読みたい時にノータイムで買って読めることの心地よさ、そしてマンガで本棚を圧迫しないという安心感という二つの悪魔的な魅力に気づかされました。(特に後者については、平野啓一郎さんがエッセイ集『文明の憂鬱』の中で「ネット書店で本を買うときは物理的な重さの制約がないため、買いすぎてしまう」ということを書かれていました。電子書籍だと保管スペースの制約も取っ払われるので、この傾向はますます加速しそうです。実際、私も現在購読中のマンガで電子書籍で十分なものは切り替えて行こうと思っていますので。ちなみに、現時点で電子書籍で十分だと判断する基準は「人に貸したくなるかどうか」だったりします)
 電子インクでの"読み味"は、見開きこそ分断されてしまいますが、問題ないレベルです(ただ、見開きでコマ構成をしている福本伸行さんの作品はちょっとキツイかも。そういうのについてはタブレットで読むことになりそうです)。

 kindleの方に話が流れてしまいました。作品の感想を。
 『魔人探偵脳噛ネウロ』のときもそうでしたが、まずこの作者は、根底のところで我々人間(人類)と価値観を共有できないキャラを主人公に据えるのが非常に上手いです。本作では、月の7割を破壊して三日月型に変えてしまい、「来年3月までに自分を殺せなければ地球を破壊する」と言っている超危険な謎の生物が主人公。その危険な生物が、なぜか椚ヶ丘中学校3年E組の担任教師になることを希望し、E組の生徒達は地球・人類の存亡を賭けてその生物=殺せんせーを暗殺することに…。
 ここだけ説明すると、ものすごくぶっ飛んだ設定で殺伐とした話っぽく聞こえます。
 が、殺せんせーのキャラクターは基本的にほのぼのとしていて、自分を攻撃してきた戦闘機の攻撃を避けつつワックス掛けをするなど、自分を殺しに来た敵に対して「お手入れ」で返すユーモラスでとぼけたキャラです。
 しかも、E組の生徒達はいつしか殺せんせーとの「殺す・殺される」関係性での学校生活を生き生きと楽しむようになっていて、むしろE組を落ちこぼれとして徹底的に差別する学校の在り方の方がよっぽど救いがない醜いものとして描かれます。
 大枠のぶっ飛んだ設定、そして暗殺方法についての緻密なプロット、殺せんせーのボケの妙な細かさ、学園モノとしてのポジティブさと地球人類防衛のための「暗殺」というテーマ、ほんわかムードや勧善懲悪話の裏に潜むゾッとする怖さ…など、いくつものレベルで緩急や矛盾する要素が絶妙に合わさることで、読み手の予想や想定は外されまくりです。時に作者の頭の良さに打ちのめされるように感じられることすらありますが、そんな作者と読者の関係性は、そのまんま暗殺しようと躍起になる生徒達が殺せんせーに良いようにあしらわれている姿と相似形になっていたりします。「本当に良く出来てるよなぁ」とつくづく思わされました。

 冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』や荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』といった、トリックや構造がしっかりしている「ジャンプの"頭良い系"作品」の系譜に連なる良作です。オススメ!