2013年7月22日月曜日

[紹介] 唐澤和也『マイク一本、一千万』

フットボールアワーが優勝したM-1グランプリ2003を取材したノンフィクション。漫才に懸ける芸人の熱い思いが伝わってくる。また、漫才とは発想か技術かという問いにも考えさせられた。(私は発想重視派です)。(crossreview

 M-1グランプリ2003の舞台裏を取材したノンフィクション。予選、準決勝、敗者復活戦、そして決勝のスタジオの雰囲気。2003年のファイナリスト全組のインタビュー取材記事と合わせて読んでいくと、お笑いや漫才を見るのに夢中になっていて、真剣にM-1を観ていた頃を思い出しました。

 M-1がガチンコの漫才大会であり、芸人が優勝を目指して自分の全身全霊を懸けて挑戦する、まさにK-1の漫才版、言葉の格闘技大会の様相を呈していたのは知っていたつもりでした。
 が、本書を読んで、大会委員長の島田紳助もまた、漫才や若手芸人達に対して熱い思いを持っていたこと、そして審査を引き受けた審査員達も自分の全てを懸けてジャッジをしていたことを知り、「M-1のこと好きでわかってた気になってたけど、全然分かってなかったんだなぁ」と思わされました。

 本書の中で、著者により繰り返し提起される問い、「漫才は"発想"か"技術か"」。いつしかお笑い熱がクールダウンし、冷静になって当時を振り返ったときに改めて思ったのが、「僕は断然"発想"重視だなぁ」ということ。自分が思春期にダウンタウンが直撃した世代で、その影響をモロに受けているというのもあるかもしれません。当時から笑い飯や麒麟、南海キャンディーズを応援してましたし、逆に「上手い」と言われているキ○グコ○グの漫才はさっぱり理解できませんでした(とある漫才師がキ○グコ○グを「テンポがいい」と褒めているのを聞き、「テンポで笑えるならメトロノーム見て笑えんのか?」などと反射的に思ってしまったことも、今となっては懐かしい思い出です)。

 自分の中のお笑い熱がクールダウンし、M-1も終了してTHE MANZAIという似て非なる賞レースに代わりました。M-1は空気もピリピリしたガチンコの賞レースだったのに対し、THE MANZAIは良くも悪くもフジテレビらしいお祭りムード。何となく一時代が過ぎ去ったように感じた今、本書でM-1に熱狂していた当時を振り返ると、自分が時代の熱・お笑いの熱に感応していたんだ、と思い知らされました。

 奇しくも、Podcastで愛聴している谷口金太郎師匠の「現代漫才論(仮)」でちょうどM-1について語られ(#30)、それと同時並行で読んだこともあって、M-1のビデオを見返したくなってきました。

 何だか自分語りが多くなっちゃいましたが、漫才ブーム以来の芸人バブルの、その最盛期を象徴する大会のルポとしても、本書は読み応えがあります。テレビではなかなか見られない芸人達の真剣さや熱い思いが描かれていますので、漫才やお笑いに興味の無い人たちにも是非読んで欲しい一冊です。