2013年7月8日月曜日

[紹介] 三上延『ビブリア古書堂の事件手帖3』

今回は突然消息を絶った母と栞子の関係性がテーマ。正直、オカンのやり口は来たないと思いますw 今回も古書交換会や、タイトルを聞けば「ああ、あれか!」とすぐわかるあの本の蘊蓄をうまくミステリに昇華している。(crossreview

 鎌倉の古書店・ビブリア古書堂を舞台にした、古書にまつわるミステリの第3弾。前巻で登場した、家族を捨てた栞子の母の影がちらつきます。栞子と母の確執は通奏低音のようにこの作品のテーマになっていくんでしょうか(『HUNTER×HUNTER』のジンみたく、あんまりあっさり会って欲しくないところ)。

 姿も生き写しで、古書が好きという嗜好も似ている母子なだけに、母と価値観の合わない部分に対する違和感も強いのだろう。
 突然自分たちを置いて家を出て行った母。その行方と理由を探る手がかりとなる古書を探す栞子。これ、オカンのやり口が汚いです。栞子は母に対し、武道で言う所の「居着き」が発生しちゃっていて、「気にしたら負け」勝負を仕掛けられてずーっと負け続けているわけですから。

 「第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)」は、古書交換会を舞台にした話。栞子に絶版文庫の盗難容疑がかけられるのだが、そこでも母親の影が…。
 本筋とは関係ないですが、私は本作をkindle paperwhiteで読みました。電子書籍は売り手にとって在庫を抱えなくていいというメリットがあり、一度大手電子書籍レーベルで発売してしまえば今のところ絶版のリスクはない(はずです)。
 携帯電話の普及で恋愛ドラマの大きな核の一つだった「すれ違い」がほぼ絶滅寸前にまで追い込まれました。同様に、電子書籍の普及により、読むことを主目的として絶版文庫を求める層は激減するんじゃないでしょうか。(ただし、それが絶版古書価格の下落を直ちに招くとは言いにくい所もあります。電子書籍が普及することで、マテリアルとしての本を求める人が少なくなると処分もされやすくなり、その分マニアの間で高額化することも考えられます)

 「第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』」は、親子の確執(栞子母子ではない)を背景に、本の正体を探る話。知ってる人は知ってる話なんだろうし、読んだことのある人であれば犬の名前を聞いただけでピンとくるのだろう。もちろん、知ってても楽しめるし、知らなければ「へぇ~」と出版事情の蘊蓄を楽しめます。

 「第三話 宮澤賢治『春と修羅』(關根書店)」も、宮澤賢治の古書に関する蘊蓄をベースにしたミステリ。宮澤賢治については個人的に食指が全く動かず、『注文の多い料理店』くらいしかまともに読んだことがないのですが(あと、教科書で、死にかけの妹が「あめゆじゅとてちてけんじゃ」という詩を見かけたくらい)、話自体は問題なく楽しめました。

 今回も謎を追いかけつつ、「へぇ~、そんなのがあるんだ」と楽しませてもらいました。