2013年7月24日水曜日

[紹介] 宮下英樹『センゴク』(1巻)

「リアル合戦絵巻」の第1巻。『センゴク天正記』以降と比べると、この頃は躍動的な感じがする(今はもう少し深い考察が全面に出ている)が、そういうところにも作者の変化・成長が見られるように思った。オススメ!(crossreview

 2013年1月現在、第3シリーズ『センゴク一統記』が連載されている、「リアル合戦絵巻」の呼び声高い戦国漫画。
 騎馬武者が横一列になって突撃したり、馬上で日本刀を振りかざした武者が斬り合ったり、と我々が普段抱いている戦国時代の合戦のイメージは江戸時代以降に生み出された"ファンタジー"が多い。それらを廃し、リアルな戦国時代を描こうとする意欲作が本作である。

 主人公は戸次川の戦いで島津軍に大敗し、一度秀吉に改易されるが、その後大名に復帰したという仙石秀久(作中では仙石ゴンベエ)。本作で有名になるまでは、「信長の野望」で織田家に仕える雑魚武将、くらいの認知しかなかったのではないか(私はそうでした)。
 同時期に連載されている山田芳裕『へうげもの』の主人公・古田織部もそうだが、信長・秀吉・利休といったメジャーどころから一歩引いたところに主人公を設定しているところが絶妙である。信長や秀吉については漫画以前に小説などでもある程度描き尽くされた感があるだけに、戦国モノが飽和状態にあると見ることもできるが、半メジャー・マイナー武将を主人公に据えることで、今まで描けなかった部分を自由に描くことが出来ている。そのことが、戦国モノの層の厚さと豊穣さを示している、と見るべきだろう。

 信長の美濃攻略(稲葉山城の落城)からはじまる本作は、織田方に降伏して信長に仕え、秀吉麾下に配属されるところまでが本巻のあらまし。その中で「合戦時の死因No.1は弓矢(7割)」だとか「鎧武者同士が戦うときの剣術・介者剣法」といったトリビアルな話が紹介されている(あと「秀吉の右手の親指が二本あった」という話なども)。

 ただ、今読み返してみると、連載開始の本巻辺りでは、「リアル合戦絵巻」というよりも今風の戦国モノの中に戦国時代の知識を盛り込んでいったという方が近いと感じた。
 まず気になったのが登場人物間での呼称で、信長の家臣が信長を「信長様」と呼んじゃっている所。信長は秀吉を「ハゲネズミ」、柴田勝家を「アゴ」とあだ名で呼ぶ所にリアリティを持たせているだけに、当時は言霊思想の影響で家臣が主君の名を呼ばわることなどなかったことが反映されていないので、少しだけ冷めてしまった。もっとも、この点は後の巻では直っている。
 もう一つは、ゴンベエとお蝶のラブロマンスである。個人的には、二人の感覚がちょっと現代的で、リアルな戦国時代を描くことを掲げたマンがなだけに、少し残念に感じた(だから第2シリーズ『センゴク天正記』以降、ラブロマンスが後退していってからの方が好きだったりします)。
 後に出てくる顕如(本願寺光佐)の頭に梵字の刺青が入っていたことは全然OKだったんだけどな…(笑)。多分、意図的な演出なら全然気にならないけど、知らずに描いちゃってるように読める部分に引っかかりを覚えるのだと思う。

 第2シリーズ『センゴク天正記』以降は、かなり話も大きくなってきて俯瞰的な視点が随所に入ってくる。それだけ、ゴンベエの立ち位置が相対的に小さく見えるときもあるが、本巻の頃はゴンベエ目線で話が進むし、まだゴンベエも全然偉くないので(笑)、物語に躍動感が感じられた。そしてこの変化は、作者自身の成長ともリンクしているように読めたので、そうすると、上で述べたことも含めて、トータル「アリだな」といつしか思うようになっていた(なんだそれ?w)。

 元々ラブコメなんかが嫌いなので、あまり読み直していなかったのだが、今回読み返してみたらちっちゃな瑕瑾など無視出来るくらい面白いじゃん!ということに気がつきました。
 戦国時代が好きでこれを読んでいないというのは、やっぱりモグリだと思います。今更ですがオススメです!