2011年6月28日火曜日

『マネジメント』と『もしドラ』の読み方

NHKで放送中の「100分de名著」という番組をご存じでしょうか?

名前は聞いたことあるけど読んだことがない名著を、わかりやすく25分×4回、つまり100分で紹介するという番組です。
4月から始まったこの番組、ニーチェの『ツァラトゥストラ』、孔子の『論語』ときて、6月はドラッカーの『マネジメント』を取り上げていました。


で、この『マネジメント』の話が滅法面白いわけです。
ぶっちゃけちゃいますと、4月に体調を壊してからしばらく、実生活での先行きや不安などをずっと考えあぐねてました。正直、自分が進むべき方向が見えずに悩みに悩んでいた部分もあります。
5月の終わりくらいに、そういった諸々に対しての一応の答えが自分の中で出て、それに従って行動を起こし始めました。

そこで「100分de名著」と出合ったわけですよ!
番組を見てると、そこで紹介されるドラッカーの一言一言がものすごく身に染みるんです。
「何でこの人、ここまで俺の状況を言い当ててるの!?」
「ああ、やっぱりこの方向性で間違ってなかったんだ」
「ってか、これなら悩む前に『マネジメント』読めば良かったわ…orz」
最後のは半分冗談ですが(非効率かもしれませんが、自前で考えたからこそこの納得感が得られたと思ってますので)、一気にドラッカーにハマっちゃいました。


少し前、友人のタカシゲさんと話しをしたときに、この番組の話になりました。
そのときに「ドラッカーの本にはなぜか今イチ食指が動かない」って話になったんです。

そう言われると、確かに僕も『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(以下、『もしドラ』とします)は出たときに買って読んでるんです。


そのときはそれなりに楽しんで読みましたが、その後『マネジメント』は書店でパラパラッと見ただけで買いませんでした。なのに今、ものすごくハマってるんです(もちろん『マネジメント』も買いました)。
この昔と今の「差」は何なんでしょうか?

友人の答えは「ドラッカーは、読者の側に『体験』がないととわからない」でした。
確かに、僕が『もしドラ』を読んだのはだいぶ前の話で、自分や自分の属する組織に関する悩みみたいなものはありませんでした。
それに、『マネジメント』が主にトップマネジメント層に愛読されているのも、そういうことだと友人は指摘しました。彼らが会社経営の場で直面する問題が「読者の側の『体験』」に当たるわけですね。
つまり、ドラッカーの本は「俺が経験したアレや、直面してる問題って、コレか!」って形でないとなかなか理解できず、ドラッカーの本だけ読んで理解するというのは不可能ではないにせよ、かなり難しいということです。

では、なぜそんなことになるのかな、と思ったんですが、これは『マネジメント』をパラパラ見直してみてわかりました。
『マネジメント』って、経営学の理論書なんですね。『マネジメント』の中にも「じゃあどうすればいいか? それはここの状況によって異なるから、それに合わせて考えるしかない」という個所が結構な数散見されるんです。
当たり前っちゃあ当たり前なんですが、世の中の会社組織なんてそれこそ多種多様に存在していますから、その会社組織が置かれている状況も抱えている問題も多種多様なわけです。
そして、経営学とはその多種多様な会社組織運営に共通する法則を見いだすことです。実際ドラッカーも、個別具体的に企業をあちこち観察し、そこから帰納的に経営学の理論を打ち立てたはずなんです。
平たく言うと、経営学やドラッカーの本は、色んな会社に共通する「気をつけるポイント」を指摘するのが任務なわけで、その分だけ内容が抽象的になるのは避けられません。
だから、どうしても読む側にドラッカーの幾分抽象的な指摘を我が事として読み直す力が要求されるんです。

これ、構造としては法律と一緒なんじゃないかと思ってます。
法学部に入ったらまず法学入門みたいな授業で習うのが、法的三段論法という考え方です。
法的三段論法というのは、抽象的な法規範(大前提)に具体的事実(小前提)をあてはめ、法効果(結論)を導く考え方をいいます。ざっくり敷衍しますと、 一般的に「○○についてはこうあるべき」というルールをまず明らかにし(規範定立)、ここ具体的な事実をその規範にあてはめてみて、当てはまれば効果が発 生し、当てはまらなければ効果が発生しない、という風になります。
ドラッカーの本も会社組織にあまねく通用する理論が書かれているので、法律の比喩で言えば大前提の性質を有することになります。だから、読み手の側には 自分の問題をドラッカーの理論にあてはめる力(抽象的な理論を具体的事実に演繹する力)がないとなかなか読みこなせないということになるんです。

『マネジメント』がそういう理論書としての性格を有するものであることの対比として、『もしドラ』って"よくできてる"ことに気づきました。
『もしドラ』って、「ドラッカーの『マネジメント』の内容を小説形式でわかりやすく説明したもの」と一般に理解されていますが、その理解はおそらく不十分です。
『もしドラ』の真価はドラッカーの考え方そのものを示したことではなく、『マネジメント』の使い方を例で説明した部分にあるんです。位置づけとし ては「入門書」や「解説書」ではなく、「演習書」「ケースブック」として見るべきモノなんです。

友人と「そういうことかー!」と納得した後、改めて『もしドラ』を読み直してみたんですよ。そしたら、なるほど良くできてるんですよ、『もしドラ』って。主人公がやった通りの順番で自分の問題を考えていけば、取りこぼしなくドラッカーの経営メソッドを「使う」ことができるようになっています。


長々と書いてきました。ここまで読んでこられた方の中には、「じゃあダイスケ、君は『マネジメント』から具体的にどんなことを学んだんだ?」と思われる向きがあるかもしれませんが…



ごめんなさい!


『マネジメント』本体は、拾い読みしただけで、

まだちゃんと全部読んでません!!



(でも、言い訳じゃないですが、
「100分de名著」のNHKテキスト
『もしドラ』
中野明『17歳からのドラッカー』(←これは『マネジメント』以外のドラッカーの著作についてもわかりやすく説明してるんで、『もしドラ』感覚の入門書としてはかなりオススメです)
を読んだだけでも得るものはいっぱいあったんですYo!


もし拙文をお読みになって興味が湧いた方はNHKテキスト辺りから入られるのもいいんじゃないかと思います。500円ちょいで買えますしね)